心を満たす絶景、グルメ 富士吉田市
雄大な富士の麓に広がる富士吉田市。レトロな商店街や郡内地域随一の繁華街「西裏」がある下吉田地区や、御師町として富士山信仰を伝える上吉田地区が目立ちがちだが、市東部に位置する向原・小明見エリアには、心穏やかに過ごせ、地元住民に親しまれるスポットがある。
向原地区にあり、両エリアの住民の心のよりどころとなっている小明見冨士浅間神社((1))から出発。境内には複数の社が立ち、中央に立派な神楽殿がある。神社の神楽舞は、市の無形民俗文化財に指定。地元の保存会が伝統の担い手を務める。良縁や夫婦円満が成就するといわれる一対の石「結び石」も置かれている。
広い境内を出て、北東へ向かい、古くからの住宅が立ち並ぶ道を650メートルほど進むと、堂尾山の登山口が見えてくる。
登山道は、背の高いマツやスギが覆う。針葉樹の隙間から差し込む光が心地いい。地元の子どもらが植樹した桜が待ち構える広場((2))に出ると、眼前には雄大な富士山、眼下には富士吉田の街並み。尾根に沿って、西へ向かうと関東富士見百景にも選ばれた堂尾山公園に着く。所要時間は30分程度。気軽なハイキングで絶景を拝める。
登山道を下り、来た道を戻って、今度は富士山に向かって南西方向へ。20分ほど歩くと明見小の前に、パン店「カトパン」((3))が見えてきた。店内にトングやトレーはない。あるのは、コインロッカーだけ。200~600円で、食パンやその時々のパンのセットを売っている。使える硬貨は100円玉だけなので、小銭を用意してから向かおう。
小腹を満たすため、マヨコーンとチョココロネなど5種類のパンのセット(500円)を買ってから、東へ約700メートル。地域のシンボル明見湖公園((4))で一休みしよう。水面にはハスがびっしり。「蓮池」とも呼ばれ、時季によっては桜やアジサイが園内を彩る。空を見上げるとカラスがトンビにちょっかいを出している。水辺にはカモがのんびり。自然の中で穏やかな時を過ごせる。
日も暮れ始めてきた。北へ向かうと、にぎやかな声と香ばしい匂いが届いてきた。地域住民の腹を満たし、疲れを吹き飛ばし続けてきた居酒屋「やきとり信ちゃん」の看板がともる。地元客との会話を楽しみながら、つくね(130円)やたん(同)などの盛り合わせと一緒に一杯((5))。塩味の効いた一品と地域の魅力を味わった。
店を出て星空を見上げると、仕事に追われる日々の中で、忘れかけていた時間の流れを感じた。歩き疲れたはずなのに、なんだか肩の荷が下りた気がした。
(2025年4月18日付 山梨日日新聞掲載)