富士「弾丸登山」に懸念
吉田口 行政に対策要請 山小屋は収容抑制継続、予約は殺到
夏の富士登山に向け、吉田口登山道沿いの山小屋への宿泊予約が殺到し、山小屋関係者から「弾丸登山」急増の懸念が出ている。今夏は富士山の世界文化遺産登録10年に当たり、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類となって初めて迎える夏山だが、各山小屋は感染症対策で収容人数の縮小を維持していて、「需要過多」が生じると予測。山小屋を利用できず、夜間に一気に山頂を目指す弾丸登山者が増えると警戒する。山小屋関係者は16日の総会で山梨県や富士吉田市に、弾丸登山の対策を取るよう要望書の提出に踏み切った。
「弾丸登山者が増えるのを危惧している。対策をお願いしたい」。16日午後、富士吉田市内のホテルで開かれた山小屋経営者や行政担当者が集まった総会で、山小屋16軒などでつくる富士山吉田口旅館組合の中村修組合長が県、市、環境省の担当者に要望書を手渡した。
組合によると、5月以降、山小屋への宿泊予約が殺到する。吉田口登山道沿いの山小屋では同月上旬にネットを中心とした予約受け付けを開始。瞬く間に予約が埋まり、電話も一日中鳴り続けた。開山期間中の予約はほぼ満室で、海外からの予約が3割近くを占める。担当者は「かつてない早さ。間もなく空きがなくなるだろう」と話す。
コロナ禍で、各山小屋はこの2シーズン、就寝スペースの確保や個室化など、従来よりも収容人数を半分程度にする感染対策を取り、快適な宿泊環境の整備に努めてきた。新型コロナは「5類」へと移行されたが、山小屋関係者は「長いコロナ禍によって『当たり前』の環境になった。コロナ前に戻すことはできず、維持すべきものだ」と話す。
山小屋関係者が今シーズンの増加を懸念する弾丸登山者は、市によると、コロナ前の5年間は全登山者の5~7%だったが、2021、22年は約2.5%に減った。弾丸登山は、低体温症やけがへのリスクが高まり、傷病者対応で、救護所の負担増も危惧される。登山者の急増で落石の恐れも出てくる。中村組合長は「記念の年に富士登山の付加価値を下げるような事態が起きてはならない。行政には抜本的な対策をお願いしたい」と語る。
県世界遺産富士山課の笠井利昭課長は総会後の取材に、富士スバルラインのマイカー規制中、バスの通行を夜間は不可とし、山梨、静岡両県、環境省のオフィシャルサイトで弾丸登山の自粛を呼びかけるなどの対策を説明。ただ登山者の制限は「入山、登山の自由がある」と否定的な考えを示した。堀内茂市長は16日の取材に対し、登山道への流入規制の必要性について指摘。「安心、安全な登山が危ぶまれる状況だ。人数規制なども考えなければならない。適正な管理が必要」と話し、今後、登山道を管理する県と協議する方針を明かした。
(2023年5月17日付 山梨日日新聞掲載)