2023.2.25

「信仰の道」再興へ本腰

富士山世界遺産10年で富士吉田市 1~5合目歴史つなぐ

馬返し近くの吉田口登山道。富士吉田市が1~5合目登山道の再興に乗り出す=同市内

馬返し近くの吉田口登山道。富士吉田市が1~5合目登山道の再興に乗り出す=同市内

 富士山の世界文化遺産登録から10年となる今年、麓からの富士登山の再興に向けて、富士吉田市が建物の補修や解説板の設置など本格的な対応に乗り出す。麓から5合目には文化的価値の高い神社やかつての茶屋が残るが、現在は建物が傾くなど荒廃が進む。世界文化遺産の構成資産を活用しきれていない面があったことから、富士山の関係者は「歴史、文化、信仰の価値を継承する契機にしてもらいたい」と期待を寄せる。

 「麓から5合目の登山道は豊かな自然がある。北口本宮冨士浅間神社を参拝して、麓から登っていくのが富士山信仰の原点だ」。富士吉田市の堀内茂市長は2月の記者会見で再興に意欲を見せた。

 市は1~5合目の登山道の保存と活用に向けた調査を2023年度から2カ年で実施することを決定。結果を基に建物が傾いた神社「鈴原社」や茶屋の修復を検討する。既に建物がない茶屋や山小屋の跡地に、成り立ちなどを説明する解説板を設置する。環境配慮型の常設トイレや待避所の整備も想定。活用に向け国や県との調整も担う。

 「ついに行政が動き出した」。信仰登山や麓からの登山の再興に向けて活動する一般社団法人「カノエサル」の勝俣俊二理事は、市の動きを歓迎する。

 富士吉田市上吉田の北口本宮冨士浅間神社から富士山頂まで続く吉田口登山道は世界文化遺産の構成資産。18世紀後半以降、富士講信者ら多くの人でにぎわった。しかし、1~5合目では朽ちた建物も多く、勝俣理事は「構成資産であるはずなのに、価値が消えてしまっている」と感じていた。法人として計画した登山道整備も、国や県との調整の難航が予想されていただけに、「役割分担ができる。地元の声を行政に届けるパイプ役になりたい」と、市に協力する考えだ。

 富士講信者の世話をする御師文化を支えてきた上吉田地区の「菊谷坊」の18代目当主でもある、カノエサルの秋山真一代表理事は「御師の街から山へと向かっていった文化にも注目してもらえるようにしたい」と意気込む。

 2021年4月に富士山1合目手前の馬返しの茶屋「大文司屋」を復活させた羽田徳永店主は、「山菜採りや野鳥観察に訪れる人も多い。こうした魅力が伝われば、登山道としての可能性も広がるのではないか」と意義を強調。現在は4~11月の営業だが、登山道整備が進めば通年営業も選択肢として検討できるという。

 富士登山はこれまで、5合目から山頂がメインになり、5合目はスタート地点とみられがちだった。富士山5合目観光協会の小佐野昇一会長は「1~5合目の活用が進むことで、出発点となっている5合目が、発着点や山頂を目指すまでの中間点にもなり、過ごし方に広がりが生まれてくる。世界文化遺産10年を迎え、さらに魅力が伝わるように協力していきたい」と話す。

(2023年2月23日付 山梨日日新聞掲載)

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