麓カフェ 50年ぶり復活
渡辺さん「支度所」歴史継承へ
富士登山者を受け入れるカフェが半世紀ぶりに復活-。富士吉田市上吉田の北口本宮冨士浅間神社前に渡辺儀訓さん(64)が「清涼カフェさくら」をオープンし、今夏から本格稼働させた。渡辺さんの祖母は大正から昭和初期にかけて同じ地で夏季限定の売店を営んでいて、麓から登る人々の憩いの場になっていた。渡辺さんは「短いながらも栄えた歴史があったことを、店を復活することで知ってもらえれば」と話している。
テラス席からは北口本宮冨士浅間神社の鳥居が望め、メニューにはコーヒーやソフトクリーム、ピザやビールが並ぶ。「清涼カフェさくら」店主の渡辺さんは元教員だ。富士吉田・吉田小の校長などを務め、4年前に退職。2020年に店をオープンしたが、新型コロナウイルス禍で思うように営業できず、今夏が本格稼働となる。
神社真向かいのこの地は昭和20~30年代、「富士山支度所」として4軒が立ち並び、登山シーズンに合わせて弁当や飲料、つえ、土産物を取り扱い、神社から山頂を目指す登山者の立ち寄りどころとして栄えた。渡辺さんの祖母春江さんもこのうちの1軒「清涼館」を営み、2階は旅館、1階は売店、戦後は地下にダンスホールを設け、にぎわっていたという。
渡辺さんの実家は「清涼館」のすぐそばにあり、子どものころの遊び場で、鳥居を眺めるのが好きだった。売店だったころの記憶はないが、にぎわいは聞いていた。しかし、近くの道路工事や富士スバルラインの開通などにより、5合目からの登山が主流となり、支度所は軒並み廃業し、清涼館も昭和30年代に廃業した。
渡辺さんが目指すのは「歴史の継承」だ。上吉田地区は、富士山信仰の富士講と宿を提供する「御師の家」の歴史がある。「一般の登山者が立ち寄る『支度所』があったことも子どもたちや地域の人、登山者にも知ってもらいたい」と話す。初めての商売に悪戦苦闘の日々だが、「店を構えることで少しでも継承につながればうれしい」とほほ笑んだ。
(2022年8月9日付 山梨日日新聞掲載)