富士山小屋 新様式で
7月1日に2年ぶりに開山する富士山で、吉田口登山道沿いの山小屋は30日、新型コロナウイルスの感染防止対策を取って、山頂を目指す登山客らを受け入れた。宿泊客を減らして距離を確保したり、完全個室化したりと山小屋の様子は様変わり。コロナ禍で登山を見合わせる人も多いとみられ、宿泊は例年の約3割と少なかったが、登山客からは「対策されていて安心」「くつろげる」などと好評で、山小屋関係者は「おもてなしに力を入れ、山小屋のイメージを変えたい」と意気込む。“新様式”の夏山シーズンが幕を開けた。
「やっと会えましたね」。標高3400メートル地点の「本八合目トモエ館」で30日、2年ぶりに訪れた常連客が従業員に声を掛けた。この日は5合目の吉田口登山道から出発した登山客約30人が午後4時ごろ来館。従業員はフェースシールドを付けて受け付けをし、登山客も代表者1人が会計する方式を徹底した。
山小屋16軒などでつくる富士山吉田口旅館組合は今季、(1)宿泊は原則事前予約(2)避難者は客室や就寝スペースには立ち入らせない(3)宿泊者におよそ2畳分か、90センチ以上の就寝スペースの確保-などの感染症予防対策基準を設けた。
トモエ館では6月28日から営業準備を始め、45部屋を順次個室化。換気扇の数も4台から10台と大幅に増やし、台所での調理もビニール手袋を着用するなど徹底した。コロナ対策で収容人数も通常の半分の100人に制限することを決めた。43年間営業してきた望月勉支配人は「昨年は営業できず寂しかった。またお客さんの登山の手伝いができる」と喜びを口にした。
就寝スペースは1部屋6平方メートルで2人まで利用できる。「せっかくなら快適な空間にしよう」(望月支配人)と、壁側にはスマートフォンや眼鏡など小物を置ける小棚を設置し、カメラやスマートフォンの充電ができる電源コンセントも確保した。
宿泊客には就寝時には不織布のシートを頭からかぶってもらい、飛沫などが枕や掛け布団に付かないように協力を要請。一堂に会す広間での食事では、テーブルに他のグループと仕切るためのアクリル板を設置。食事中は最低限の会話にとどめるよう従業員が拡声器で促していた。
山開き前夜の宿泊は例年、100人程度だったが、今年は約30人にとどまった。今季は例年の宿泊客の4割を占めていたインバウンド(訪日観光客)が蒸発し、観光業者が組むツアーもなくなって団体客もなくなった。
予約カレンダーの空白は続くが、「これを機に個人客にゆっくり富士山を堪能してもらいたい」と言う望月支配人。「少人数だからこそ山小屋も一人一人により丁寧な接客が可能になる。おもてなしもできるという、新しい山小屋のイメージをつくるチャンスにしたい」と、くつろぐ宿泊客を見てほほ笑んだ。
(2021年7月1日付 山梨日日新聞掲載)