運賃1万円は現実的?
北麓首長、富士山鉄道構想を疑問視 観光客敬遠に懸念も
8日に固まった富士山の麓と5合目を次世代型路面電車(LRT)で結ぶ「富士山登山鉄道構想」。年約300万人の利用があると見込む構想に、富士北麓地域の首長は「往復運賃1万円は割高で、利用客の見込みが過大だ」などと疑問視し、同地域の来訪客減少を懸念した。約1400億円とした事業費に「自然災害の対策費が含まれていない」とし、鉄道を敷く方式自体の再考を求める指摘も。長崎幸太郎知事は「一日も早い実現を目指す」と意欲を示すが、地元首長は「『整備ありき』ではない地元への説明を」と求めた。
「まだまだ検討すべき点はあるが、大変よくまとまった」。総会では、出席した理事や委員から県の構想案に賛同する声が相次いだ。構想では、富士山有料道路(富士スバルライン)上にLRTを敷設し、事業費として約1400億円を見込んだ。往復運賃1万円で年約300万人の利用があると試算。県は今後、静岡県側を含めた地元市町村や関係団体などに説明する考えだ。
構想の決定を受け、富士河口湖町の渡辺喜久男町長は「観光産業で成り立つ町。『乗ってみたい』と思う観光客が訪れるきっかけになれば」と期待を口にした。その一方で、「1万円という料金で、果たして年間300万人が利用するのだろうか」との疑問も投げ掛けた。
2018年の県観光入込客統計調査によると、富士山5合目を訪れた観光客は約500万人で、7、8月の2カ月間で140万人以上を占める。富士スバルラインの通行料(往復)は普通車で2100円、夏山のマイカー規制期間中はシャトルバスの往復運賃が1人2千円、麓の駐車料金が1台千円となっている。
登山鉄道の試算料金と現状との開きは大きく、鳴沢村の小林優村長は「利用客が減るかもしれない。静岡県側に観光客が流れる可能性があり、料金設定を精査する必要があるのではないか」と話した。
富士吉田市の堀内茂市長は県が想定した整備費について「この他に落石など自然災害に対処する周辺整備のコストも必要になる」と、費用が増大する可能性を指摘。富士山の環境保全にはマイカー規制の強化などの対策を進めるべきだとして、登山鉄道構想自体に否定的な考えを示した。
構想決定を受け、長崎幸太郎知事は「構想の一日も早い実現を目指したい。地元の理解を得て、多くの皆さんに祝福される中で事業を進められるようにしたい」と述べた。
地元3市町村長は「(登山鉄道が)実現可能かどうかの話をしている段階だと考えている」(小林村長)などとして、住民への十分な説明を求めている。堀内市長は「富士山を守り続けてきた地元住民の理解なく、構想を具体化することは好ましくない」とくぎを刺した。
(2021年2月9日付 山梨日日新聞掲載)