今年こそ富士登山
コロナ対策万全
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、富士山は昨年の夏、山頂までの登山ができなかった。吉田口登山道沿いの山小屋や5合目の売店関係者、山岳ガイドらは「異例の夏だった。さみしさや残念な気持ちが大きかった」と振り返り、「今年はぜひ富士登山を」と口をそろえる。関係者は登山客を迎えるため感染予防対策を徹底、夏山シーズンを心待ちにしている。
吉田口旅館組合長中村さん 感染予防徹底し迎える
「毎年、夏は富士山にいるのが当たり前だった。やはりさみしさ、物足りなさがあった」。富士山吉田口旅館組合組合長の中村修さん(71)は振り返る。
7合目で山小屋を経営する7代目。子どものころから夏休みは山小屋に遊びに行き、高校生になると手伝いもするようになった。父親から経営を引き継いで20年余りたつが、富士登山ができない夏山シーズンは初めての経験だった。
限られたスペースに登山客が宿泊する山小屋は密閉、密集、密接の「3密」の状況になりやすいとされ、昨年は組合加盟の全16軒が、感染予防の観点から夏山シーズンの営業を休止した。「苦渋の決断だった」。組合長として苦しい胸の内を明かす。
各山小屋は今年の夏山シーズンに向けて、新型コロナウイルス対策の検討を進めている。一度に受け入れる登山客の削減、間仕切りの設置や換気の徹底などを想定。登山客には消毒や検温の徹底のほか、山小屋内でのマスクの着用などを求めるという。中村さんは「県や富士吉田市と相談しながら対策を徹底し、万全の態勢で登山客を迎えたい」と話す。
五合目観光協会長・小佐野さん 全土産店に県認証
「かつて経験のない異例の年」となったのは富士山5合目の土産店にとっても同様だった。例年、売り上げの約7割を占めていたインバウンド客が入国制限で姿を消し、登山客も減少。富士山五合目観光協会の小佐野昇一会長(54)は「昨年7月は1カ月の売り上げが、例年の1日分の売り上げにも満たなかった」と語る。
5合目では土産店全5店舗が県の「グリーン・ゾーン認証制度」を取得。レジの前にはビニールシートを設置、来店客には検温や手指の消毒を呼び掛けるなどの感染対策を徹底しており、小佐野会長は「富士山に登りたい人はたくさんいる。今年こそは何とか登山客を迎えたい」と話す。
感染想定して準備を 登山ガイド・太田さん
「山頂を目指す人それぞれにドラマがあり、参加者の人生の一部を手助けができるのが喜び」。富士山で登山ガイドを行う一般社団法人「マウントフジトレイルクラブ」(鳴沢村)代表理事の太田安彦さん(38)はそう語り、「1年登ることができなかったため、今年はなおさら楽しみだ」とする。
同様の思いから、多くの登山客が訪れることが想定されるが、太田さんは毎年、「せっかくここまで来たから」と体調の悪さを隠し、天気が悪くても出発するなど無理をしてしまう登山者を見てきた。
太田さんは「富士山で新型コロナウイルスの感染が広がることがあってはならない。登山者に慎重に行動してもらう啓発が必要だ」と指摘。感染者が出た場合のシミュレーションの策定などの必要性を訴えている。