富士山8合目で診察します 山梨医大病院医師ら、救護所を開設
登山者でにぎわう富士山8合目に今夏、山梨医科大付属病院(塚原重雄院長)の外科医らがボランティアで救護所を開設、24時間態勢で高山病や転倒などによるけがの応急治療に当たっている。夏山シーズン中は7合目の県営救護所にも医師が常駐している。しかし現在は5合目からの登山が主流で傷病者は8合目から山頂にかけて発生するケースが多く、山小屋関係者らの要望を契機に8合目への開設が実現した。今回は8月の登山最盛期間に限定した臨時的な試みだが、深夜、早朝を問わない対応は登山者から好評で、8合目への救護所常設を求める声も上がっている。山梨医大側も前向きで、早ければ来夏にも常設が実現する可能性もある。関係者は「7合目の救護所と合わせ、登山者の安全確保態勢が充実する」と期待している。
ボランティア救護所の開設は、長年、8合目の山小屋で登山者の安全を見守ってきた「太子館」(標高3,100メートル)オーナーの井上洋一さん(57)の呼びかけがきっかけ。井上さんは「7合目から岩場が増え、8合目以上はさらに険しい。空気も薄く、傷病者が出るのは大半が8合目より上。7合目の救護所から診療に来てもらうにも岩場が多く迅速対応は難しい。搬送も担架を使うので簡単ではない」という。
井上さんは7月中旬、山小屋組合の会合で8合目への救護所設置を提案。同病院へ医療スタッフ派遣を要望した。既に夏山シーズンに入っていたため、病院側はボランティアを募って急きょ対応することになり、5人の医師と、薬剤師や職員らが名乗りを上げた。
酸素や外傷用消毒薬、救急用心電図、吐き気止め、頭痛薬などの薬品類は病院が提供。井上さんが自分の山小屋の一部を自費改造して救護所スペースとした。医師らは8月初めから交代で8合目に登り、救護に当たっている。
県営救護所は戦前、8合目の富士山ホテル内にあったが火災で閉所。1962年からは、7合目に県営救護所として施設を建設し、千葉大に委託。県が薬代などを含めて一シーズン約420万円の委託金を払い、同大OBの医師と学生が2人1組で夏山シーズン中に常駐している。
富士山での傷病者数は、登山者増に伴い年々増える傾向にある。7合目の救護所には昨夏の約5週間で202人が受診した。一方、今回設置した8合目の救護所も、約2週間で50人を手当てした。富士山旅館組合の刑部進組合長(78)は「8合目より上での傷病者も多い。来年度以降、県営として常設されればありがたい」と言う。
塚原院長は「来年以降も救護所の設置に協力したい。県営として位置づけられれば理想的で、そうなれば千葉大とも協力し、登山者の安全をよりよい形でバックアップしたい」と前向きだ。
県営施設とするためには環境省や文化庁の了解を得る必要などがあるが、県医務課は「山小屋組合などから正式な依頼があれば、県から山梨医科大付属病院に協力要請などを行うつもり」と話している。
最近の登山者は熟年世代などが増えているだけに、救護所の増設や充実に期待する声は多い。8合目を登山していた東京都の60歳代の夫婦は「救護所の看板が見えてほっとした。7合目から足場が悪く不安だったが、頂上を目指す気持ちになれた」と話す。
また、子どもや親せきと訪れていた南都留郡西桂町の男性(43)は「静岡側の登山道より吉田口は険しい。子ども連れには救護所が多い方が安心」と歓迎していた。【当時の紙面から】
(2001年8月19日付 山梨日日新聞掲載)