吉田のうどん
山梨県富士吉田市を中心に、今や地域の名物として定着している「吉田のうどん」。2007年12月、農林水産省が発表した、農山漁村で受け継がれているふるさとの味「郷土料理百選」に、山梨から「ほうとう」とともに選ばれた。その特色は、麺の腰の強さやキャベツ、きんぴらゴボウなど独特の素材を合わせて楽しむ食べ方、民家の座敷をそのまま使った店が多いことなどがあげられる。
富士山に染みこんでからわき出す味ふくよかな名水を使って打っためんは「固い」という人もいるほど腰が強く、のどごしがよい。つゆはみそ味かみそとしょうゆの掛け合わせとすっきりとした味わい。具は、ゆでたキャベツ、きんぴらゴボウ、油揚げ、ニンジン、かつおぶしなどが多く、中でも肉は馬肉であることが特徴。また薬味には、赤唐辛子と一味唐辛子をすり込んだ中にしょうゆとみりんを加えたものや、ごま油とサンショウ、ミカンの皮などをすり潰して、しょうゆを加えたものが代表格の「すりだね」、ごまと唐辛子を念入りにすった「ごまだれ」などを使う。
古くは御師の家が並ぶ富士参詣の門前町であった上吉田(富士吉田市)で、富士山を訪れた登拝者に、登山前に身を清めるため湯もりうどんを振る舞っていたのが由来とされる。また、富士北ろくの厳しい気候、やせた土地ゆえ米の栽培が難しく、穀類を食べる習慣が強かったが、昭和になって副食に「うどん」「ほうとう」を食べる機会が増え、さらに戦後、織物業の隆盛に合わせ、昼夜を問わず織物を織る女性に代わって昼の支度をした男衆の味がいつしか定着し、「うどん屋」として軒を並べるようになったともいわれている。富士吉田市ではうどんは縁起のいい食べ物とされ、正月や祝いの日など各家庭での集まりに出されてきた。「腰があって長く続く」から、結婚式の締めのメニューには必ず入っているという。
富士吉田市内には60軒以上のうどん店があるが、店構えは店舗というより普通の自宅を活用し、部屋を開放して営業する形態が比較的多く、これも特徴となっている。営業形態は、昼の2、3時間しか営業しないところも少なくない。昼食時、各店には近所の会社員や家族連れなどの常連が集まり、席が空くのを待つ人たちの列ができるところもある。メニューは、かけ、湯もり、肉入り、きんぴら…など、店により具は変わるが、「安さ」も特徴。それゆえ地元の人はたいがいが「大盛り」もしくは1杯目のつゆを残しておいて「替え玉」をもらう。まさに庶民の食卓である。
■関連項目■
「吉田のうどんマップ」 2000年から市内のうどん店をPRするために富士吉田市が「吉田のうどんマップ」を発行、富士北麓地域の観光案内施設などで配布。マップには店舗の位置や情報、吉田のうどんの特徴や雑学、関連商品などが掲載されていて、「観光関連パンフレットのベストセラー」として人気が高く、発行部数も2010年までの累計で100万部を突破し、2013年には150万部に達した。
うどん店の掲載には、吉田のうどんの定義として設けられた項目(麺に腰がある・富士山の湧水を使用している・キャベツがのっている・馬肉を使用している…など)を一定基準クリアしていることが条件となっていて、2022年12月版には45店が掲載されている。
また、マップに掲載されたうどん店全店の食べ歩きに挑戦し、全店制覇すると、(一財)ふじよしだ観光振興サービスより「うどんマイスター」として認定される。
2013年には、吉田のうどんマップのデラックス版を発行。新たに各店の全メニューを掲載。A3判サイズの大きな地図を付け、店舗の場所が詳しく分かるようにした。「うどんマイスター」14人が一押し店についてコメント。デラックス版はA4判二つ折りサイズの43ページで、3000部を製作。1冊100円。道の駅富士吉田で販売した。
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「吉田のうどんぶりちゃん」 吉田のうどんを全国に発信しようと、2008年4月に(財)ふじよしだ観光振興サービスが考案したマスコットキャラクター。うどんの器をイメージし、「日本一」の前掛けを着用、富士山の頂上にドンと座り込んでいる。携帯電話ストラップ、ミニタオル、ボールペン、シャーペンなどに商品化されている。2016年にはテーマソングCDを製作・販売。