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2021.1.09 所属カテゴリ: ふじさんクエスト / 社会・歴史 /

なぜ富士山頂に境界がないのか?

 富士山は山梨、静岡両県の間に位置するが、山頂部から東側斜面(山梨県富士吉田市と静岡県小山町および山梨県鳴沢村と静岡県富士宮市)にかけては境界(県境)が定まっていない。境界がない状況は古くから続いているとみられ、明治時代には国が境界調査を実施したが、両県の主張が対立。結論が棚上げされてきた経緯がある。

 山梨県市町村課がまとめた資料によると、江戸時代の地誌「甲斐国志」には「8合目より頂上に至りては、両国の境なし」と書かれ、当時から境界のない場所だったことが読み取れる。

 1897年、当時の宮内省御料局が境界調査を実施したが、山梨、静岡両県が異議を唱えた。1905年には静岡県側が「8合目境界」を主張。一方、山梨県側は福地村(現富士吉田市)と鳴沢村が07年に山頂に境界を設けるよう求めたという。

 ただ、静岡県側が主張したとされる「8合目境界」が、どんな内容なのかははっきりしない。同県自治行政課の担当者は「資料がないため、把握していない」と言う。

 両県はその後、それぞれ独自に測量をしたが、境界画定には至らなかった。1951年には当時の両県知事が会談し、境界をめぐり争わないことで一致したとされる。横内正明山梨県知事と川勝平太静岡県知事は2014年1月、ともに境界問題を議論の対象にしない考えを示しており、問題は現在も棚上げされた状態。

 なお、富士山頂の土地については1974年の最高裁判決で、その所有権が富士山本宮浅間大社にあると確定している。また、富士山頂郵便局、富士山特別地域気象観測所の所在地は静岡県となっている。山梨県にはちょっと不利な状況だ。登山客は圧倒的に山梨県側からが多く、かつて甲駿両国で山論があり「諸州採薬録」には「(富士山は)甲州の山で…」との記述があるなど山梨県びいきもしたいところだが、ここは「神聖な富士の山は信仰の対象として神社のもの」ということなのだろう。

 国土地理院によると、全国では富士山頂を含む14カ所で県境が定まっていない。

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