1つ前のページに戻る

ハザードマップ改定


どこへ避難…詳細に

 「改定は自治体の避難計画に影響を及ぼす。学術的な知見に基づいて、住民にも分かりやすい地図となるように関係機関を交えて議論したい」。昨年7月、富士山のハザードマップ(危険予測地図)改定に向けた富士山火山防災対策協議会の検討委員会。委員長を務める山梨県富士山科学研究所の藤井敏嗣所長(72)は委員たちに呼び掛けた。

 現行のハザードマップは2004年に国や関係自治体が作成した。過去の噴火を基に、火口ができる可能性が高い範囲や、溶岩が到達する範囲、噴石が落ちる範囲を明示。避難が必要なエリアについても示している。

 新たなマップでは、火口位置を想定する際、参考にする噴火年代を現在の「3200年前」から「5600年前」までさかのぼることを検討。想定される火口の範囲は現行のマップから広がる見通しだ。地形データも現行のマップより詳細な20メートル四方でシミュレーションし、より精密に溶岩の流れ方を検証する方針だ。

「分かりやすく」

 「富士山が噴火したらいつ、どこへ逃げますか」。県富士山科学研究所で火山防災を研究する吉本充宏さん(48)は11日、富士吉田市の富士北稜高で開かれた防災講話で、参加した1、2年生約500人に問い掛けた。会場の体育館にはざわめきが広がり、戸惑いの表情を見せる生徒もいた。

 【写真】富士北稜高で開かれた防災講話で、富士山噴火にまつわる質問に挙手をして答える生徒たち。ハザードマップの改定が進む一方、どう住民に周知するかが課題になっている=富士吉田市新西原1丁目

 吉本さんは「噴火を知らないと逃げることはできない」と指摘。「市街地では歩く速度より遅い」などと溶岩流の特徴、過去に起きた噴火、ハザードマップを紹介した。「皆さんは富士山とともに生きている。噴火の特徴を正しく知り、過剰に恐れないことが大切だ」。吉本さんは家族や友人と噴火が起きた際の対応を話し合うよう呼び掛けた。

 「住民にどう分かりやすく伝えるか。マップ自体の表示方法やどのように住民に周知するかが課題」。同協議会事務局の静岡県危機情報課の担当者は改定版公表後の住民周知に気をもむ。

 現行のマップでは、溶岩の流れる範囲について火口の場所によって17パターンを重ね合わせて表示している。だが、03年9月に開かれた試作版の住民説明会では「多くの情報が重なって載っているため見にくい」という意見も出た。

住民周知が課題

 ハザードマップの重要性はここ数年、高まっている。15年の関東・東北豪雨で鬼怒川が氾濫した茨城県常総市や、昨年7月の西日本豪雨で大きな被害が出た岡山県倉敷市真備町地区もおおむね想定通りに浸水が起きた。一方で、西日本豪雨では避難につながらず、いかに住民に周知するかという課題も指摘された。

 藤井所長もこう力を込める。「住民全体に理解してもらうことが必要。周知がどういうやり方がいいかは委員会でも考えないといけない」。最新の知見を踏まえ、より詳細な内容にする一方で、住民に分かりやすく伝えるには、どうすればいいのか。模索が続く。


 【「守る命」富士山噴火に備える】
広告