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2023.6.10 所属カテゴリ: ふじさんクエスト / その他 /

山梨県が開発、新魚の名は…

 山梨県がキングサーモンとニジマスを交配して開発した新魚「富士の介」。2017年11月、県内での養殖がスタート。

 「富士の介」は、食味が高く評価されている大型の高級魚・キングサーモンと、飼育しやすいニジマスの両方の長所を持っている。身がきめ細やかで脂の乗りが良いことが特徴。ふ化後約3年で、体長約70センチ、重さ約3キロに成長する。

 両者の良い点を取り入れた魚を生み出そうと、2002年度から予備研究が始まり、2007年度に養殖化に向け正式な研究に移行、交配に取り組んできた。2016年12月に水産庁から養殖の承認を受けた。

 県は2017年2月、新魚の名前を募集。全都道府県から3千を超える応募があり、「キングサーモンの血を受け継いでいることを連想させる」「山梨らしい」などの視点から絞り込んだ。キングサーモンの和名「マスノスケ」を踏まえ、「富士」から山梨がイメージできる点や、親しみやすいことなどから同年11月「富士の介」と命名した。

 県は県内の7養殖業者に受精卵約16万粒を提供。2018年11月には養殖状況を公開し、1年間で体長約30センチ、重さ約500グラムに育つ。同年2月には「富士の介」の試食会が開かれ、薄造りやすし、ソテー、マリネなどの料理が並んだ。

 2019年2月には都内で「富士の介」をPRするイベント開かれ、ソムリエの田崎真也さんが監修した料理『富士の介のミ・キュイ(半生焼き)』などとワインを提供し、山梨の新しい「味」を紹介。県農政部の担当者が富士の介の開発経緯、特徴などを説明した。3月には甲府で試食会が開かれ、刺身や焼き魚、すしなど5品目を提供した。6月の「食育推進全国大会inやまなし」では、タレントの「さかなクン」が「富士の介」の応援団長に就任した。

 本格的な流通を前に、10月に甲府市内で出荷式を開催。各養殖業者から飲食店や宿泊施設のほか、甲府市地方卸売市場、東京・豊洲市場へ順次出荷が始まる。

 12月から山梨県都留市が、ふるさと納税の返礼品に「富士の介」を加えた。

 2019年度の出荷実績は11トン。

 2020年2月には、県が「富士の介」のロゴマークを発表。「富士の介」の文字をちりばめたデザイン。「富士」は富士山の形、「の」は太陽、「介」は太陽と富士山の下に、2匹の魚を配置して表現。ロゴマークはデザインの比率を変えないなどの使用規定を順守すれば、誰でも無料で使用可能。県花き農水産課のホームページで画像データを取得できる。

 6月、南アルプス市下今諏訪の「燻製屋 響」が「富士の介」の薫製を作り販売を始める。薫製は「自家製秘伝ソミュール液」と「爽やかゆずの風」の2種類。「ソミュール液」は和風に味つけした塩ベースのたれでつけ込み、味付けしている。「ゆずの風」は数種類のハーブを使い、ゆずの果汁を加え、さっぱりとした後味が特徴という。

 12月、県と創薬メーカーの国際スペースメディカル(東京都千代田区)が「富士の介」の成分を分析し、サプリメントの開発などを目指す共同研究を始めることで基本合意。富士の介に新たな付加価値を創出し、販路拡大を図ることなどが狙い。富士の介が免疫力に効果があるとされるビタミンD3を多く含むサケ・マス類であることや、安定した分析が可能な養殖魚であることから、国際スペースメディカルが県に提案。共同研究では、血中で細胞間の情報伝達を担う「エクソソーム」と呼ばれる物質を解析し、富士の介が保有する特徴的な機能性成分を確認する。成分を多く含む部位を特定した上で、サプリメント開発や別の商品化を目指す。

 2020年度の出荷実績は31トン。

上り線双葉サービスエリアのレストランで提供される「富士の介」 2021年1月、都留市の小中学校で「富士の介」を使った給食(スープパスタ)が振る舞われた。県内の学校給食に富士の介が使われるのは初めて。

 7月、高速道路のサービスエリア(SA)内で飲食店などを手掛けるタックと、山梨中央水産が、「富士の介」を使ったメニューを、中央自動車道上り線双葉SAと中央道下り線談合坂SA内の飲食店で提供。双葉SAのレストランでは、富士山をイメージしたご飯の回りに富士の介の切り身を並べ、イクラや玉ネギなどをちりばめたメニュー「富士の介」=写真右=を提供。談合坂SA内の「談合坂定食亭」では富士の介の丼を販売。いずれのSAも冷凍した生食用の切り身(600円)を販売。

 10月、JR中央線特急で「富士の介」を東京・八王子駅に運び、すしや刺し身として提供する企画が行われ、駅内の鮮魚店の職人がさばいて販売した。

 11月、県が首都圏のJR中央線快速などの女性専用車両内の電子掲示板で「富士の介」のPR動画を配信。動画は15秒。富士の介が泳いでいる姿とともに「名水で育まれた日本唯一の魚」と紹介。富士の介の刺し身と白ワインの映像を使い「やまなしのオンリーワンを召し上がれ」とPR。最後は富士山の映像と合わせて、県内の農畜水産物をPRする際に使うロゴマーク「おいしい未来へやまなし」を表示。

 「富士の介」の2021年度の出荷実績は前年度比77.4%増の55トンで、目標を10トン上回った。県内で認知度が高まり、取り扱う養殖業者や飲食店などが増加。養殖業者は2019年度の7社から13社に拡大。富士吉田市や山梨市、富士川町など県内の業者という。販売している県内の業者はホテルや鮮魚店、すし店など約50カ所で、2019年度から4倍近く増えた。脂ののりの良さから消費者や取扱店舗の評判が高く、順調に販路が広がっているという。一方、県のほか富士吉田や韮崎などの自治体は、ふるさと納税の返礼品として富士の介を取り扱っている。

 2023年5月、地域文化に根ざした独自性のある贈答品を表彰する「日本ギフト大賞2023」で、割烹立よし(富士川町鰍沢)の「ほぐし飯の素・5点セット」が都道府県賞(山梨)を受賞。ほぐし飯は、同社が商標登録した炊き込みご飯の具材とだし汁のセット。米を洗って水切りしてから炊飯器に入れ、具材とだし汁を加えて炊くだけで食べられる。香ばしさが感じられるよう、具材は全て焼き目をつけてから真空パックにしている。受賞したのは、アユやタイ、県産ブランド魚「富士の介」、信玄鶏、富士桜ポークの計5種類のほぐし飯のセット。1パックで米2合分。5点セットは6500円。

 体長50~60センチ、重さ2~3キロに育てば出荷可能になる。将来的には年100トンの流通を予定。

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