富士山周辺における低周波地震
低周波地震とは、普通の地震より周波数の波長が長く、極端にゆっくり揺れる地震。地下のマグマや熱水の活動を示すとされる。地震の規模を示すマグニチュード(M)は有感地震より小さく、M2を上回るケースは少ない。1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山では噴火10日前に、1998年の岩手山の火山活動では直前に低周波地震が多発したが、「火山活動すべてに付随するわけではない」との専門家の意見もある。
富士山周辺では過去に、2000年秋から2001年春にかけて低周波地震が急増したことがある。気象庁の観測データによると、それまで富士山周辺における低周波地震の発生は毎月数回から数十回だったが、2000年10月に133回、11月に221回、12月に143回と続いた。2001年に入っていったん沈静化したが、4月から5月にかけ再び頻発した経緯がある。その際、気象庁は富士山の低周波地震の増加について「直ちに噴火など活発な火山活動に結びつくものではないと考えられる」との見解を発表している。その後、6月から12月は1カ月あたり1~36回と落ち着いた。
こうした現象を受けて富士山噴火に対する防災の機運が高まり、火山防災対策に力を入れる契機になった。2001年5月に火山噴火予知連絡会が、富士山噴火予知に関するワーキンググループを始動。7月には国と山梨、静岡、神奈川の3県と関係市町村による富士山噴火災害に備えたハザードマップ(災害予測図)作成協議会も立ち上がり、ハザードマップ作りがスタートした。
また観測体制を強化するため、国土地理院が富士山周辺での衛星利用測位システム(GPS)の観測点の整備や全磁力連続観測点を設置したほか、水準測量や重量測量を実施。山梨県環境科学研究所(現:山梨県富士山科学研究所)が忍野村の県水産技術センター忍野支所内に県の機関としては初めて地震計を設置し、常時観測を始めた。
さらに富士山噴火を想定した防災訓練も、2001年6月には山梨県と地元10市町村の共催で、2002年1月には、富士山を取り巻く自治体と住民がそれぞれの県境を越えて連携した初の訓練として、山梨、静岡、神奈川3県の合同で行われた。