2013年登録へ再スタート
富士五湖の文化財指定 県、年内の同意めざす
富士山の世界文化遺産登録を目指す山梨、静岡両県は、目標としていた文化庁への7月末の推薦書原案提出を見送り、来年7月の提出を目指し、再スタートを切った。山梨県は原案で必要となる富士五湖の文化財指定に向け、12月末までに全権利者(355件)の同意取得を目指し、世界遺産推進課の体制を強化した。地元市町村が進める保存管理計画の策定作業も本格化。2013年の世界遺産登録に向け、作業は正念場を迎えている。
河口湖の上空から望む富士山=山日YBSヘリ「ニュースカイ」(NEWSKY)から
県と地元市町村は7月28日、目標としていた文化庁への7月末の推薦書原案提出を1年間先送りすることを決定。富士五湖の文化財指定に向け、地元ボート業者らの反発が強く、権利者計355件の同意取得が困難なことや、遺産保護の包括的保存管理計画の策定では関係省庁との調整が終わっていないことを理由とした。
推薦書原案提出の先送りに伴い、県などは今年12月末までに富士五湖の文化財指定に必要な権利者の同意取得を終える方針。包括的保存管理計画も同時期までに完成させる計画で、推薦書原案とともに英訳や最終調整などの作業を経て、来年7月の提出を目指すスケジュールを固めた。
県は当初2011年度の世界遺産登録を目指していたが、作業に手間取り、2012年夏に先送りした経緯がある。今回の推薦書原案の提出先送りで登録目標の延期は2度目となり、世界遺産登録は早くても2013年度になる見通しとなった。
地元市町村長からは「スケジュールに無理があった」との指摘があったほか、静岡県側からは「富士五湖に行き、解決の方向性を見いだせればと切歯扼腕(せっしやくわん)している」(川勝平太知事)と、山梨県の対応に厳しい声も上がった。
推薦書原案の提出に向けた最大のハードルは、富士五湖の文化財指定に必要な権利者の同意取得。湖畔には河川法で禁止されている施設の拡大など“違法状態”で営業している業者がおり、こうした業者には世界遺産登録による規制強化への懸念がある。業者の間には「現状の是正を迫られたら、生活できない」との声があり、地元で開かれた住民説明会では厳しい声が相次いだ。
県などは今後、関係者による湖面利用調整会議を設け、現行基準を守りながら利用計画を検討する考えを示しているが、わずか5カ月で、すべての権利者の同意取得につながるかは不透明。
審査に当たる国際記念物遺跡会議(イコモス)は富士五湖の文化財指定は求めていないものの、文化庁は「これまで文化財保護法で構成資産が保護されることが国際的に評価されてきた」として、指定を登録に向けた手続きを進める条件にしている。県は、大詰めの作業を急ピッチで進めるため、世界遺産推進課内に「対外調整室」を設置。室長ポストの職員を増員し、関係市町村や省庁との連携強化を図っている。
また市町村による富士五湖の保存管理計画策定を支援するため、企画課職員1人を世界遺産推進課と兼務させたほか、今後も富士五湖の保存管理計画策定や文化財指定に必要な同意取得のため、同課職員らの増員を検討している。