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私の富士、世界の富士

ユネスコ委 遺産登録決定 両手突き上げ「感無量」 全会一致に知事ら万感

 【プノンペン山梨日日新聞=樋川義樹】富士山の世界文化遺産登録が決まった22日の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会。議長役のカンボジアのソク・アン副首相兼首相府相が木づちをたたいて富士山の登録を宣言すると、会議を見守っていた横内正明知事と川勝平太静岡県知事は、両手を突き上げて喜びを分かち合った。「世界の富士」と認められるまで、約20年にわたった道のりは自然遺産候補からの落選、計画の遅れなどにも直面した。「世界中に愛される山に」。関係者はこれまでの歩みを振り返りつつ、霊峰とともに新たな歴史を刻む決意を語った。

万歳して喜ぶ横内正明知事(右)と、川勝平太静岡県知事

富士山の世界文化遺産登録が決まり、万歳して喜ぶ横内正明知事(右)と、川勝平太静岡県知事=プノンペン

 「決議を宣言する。富士山を採択する」。22日午後3時28分(日本時間同日午後5時28分)、ユネスコの諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)が構成資産からの除外を勧告していた三保松原(静岡市)を含む富士山の登録が決まった。横内知事は、直後の記者会見で「多くの関係者の努力が実った。富士山が世界の宝になる歴史的瞬間に立ち会え、感無量だ」と万感胸に迫る思いを語った。

 富士山の審議は19カ国が発言し、登録が決まるまで約50分を要した。ユネスコ諮問機関から「登録」勧告を受けている遺産候補としては異例の長時間の審議となったが、発言した全ての国が富士山の世界遺産登録を支持した。文化庁の近藤誠一長官は「各国が日本を応援してくれたことに心から感動している」と語った。

 富士山は当初、世界自然遺産としての登録を目指したが、ごみ問題などがネックとなり国内選考で落選。世界文化遺産に目標を切り替え、当初は2011年の登録を目指したが、構成資産の見直しや富士五湖の名勝指定で地元住民の同意を取り付ける作業が難航したため、2度にわたり登録の目標時期が先送りとなった。

 新たな歴史の幕を開けた富士山。横内知事は「富士五湖の同意取得では地域住民と対話して不安をぬぐい、逆に住民とともに環境整備に取り組む機運が高まった。富士山を保全し、世界中から愛される山にしていきたい」と決意を語った。


歓喜 北麓包む 除幕、花火、握手で祝福

 富士山の世界文化遺産登録が決まったとの「吉報」が届いた22日、地元の富士北麓地域や県庁では、住民や登録に関わった職員らから一斉に喜びの声が上がった。自治体は懸垂幕や壁画を披露し、会場には拍手や万歳の声が響きわたった。登録を記念するイベントも開かれ、商店街には早速、登録を祝うポスターも。地元首長らは「世界遺産は新たなスタート」と環境や景観保全への決意を口にした。

万歳する地元の子どもたち

富士山の世界文化遺産登録が決まり、富士吉田市役所の外壁に描かれた絵の前で万歳する地元の子どもたち

 富士吉田市では、堀内茂市長が市長室で登録決定の連絡を待った。世界遺産委員会の審議が長引いているとの知らせを聞き「何かもめているのでは…」と不安そうな表情。しばらくして登録決定の一報を受けると、天を仰ぎながら「よかったよかった」と満面の笑みを見せた。

 市役所には大勢の地元住民が駆け付け、富士山の絵が描かれた壁画を除幕。来場者全員で万歳三唱をして、登録を祝った。下吉田中3年の豊嶋涼君(15)は「友人から世界遺産登録の話を聞き、市役所の壁画を見て祝おうと思った。地元の住民としてとてもうれしい」と声を弾ませた。

 富士河口湖町では、登録が決まると、渡辺凱保町長が町職員と握手。緊急の課長会議で渡辺町長は「世界遺産決定はスタートでもある。みんなで協力し、富士山をしっかり守りたい」と訓示した。

 県庁2階の特別会議室では、平出亘副知事ら職員がインターネット中継で世界遺産委員会の審議を見守り、登録が決まると、大きな拍手が起きた。午後5時40分ごろには会議室の電話が鳴り、現地入りしている横内正明知事が「富士山が世界中から高く評価されていたことに感銘した」と報告。応対した平出副知事は、横内知事の様子を「若干、テンションが上がっているなと感じた」と説明し、集まった報道陣や職員に「ありがとうございます」と笑顔で頭を下げた。

 世界遺産を目指す活動で、山梨県学術委員長を務めた清雲俊元さんも来庁し「多くの人の力の結晶。ただ2016年までに保存管理計画を出さねばならず、世界遺産登録は今日が出発点だ」と語った。

 祝福ムードは観光施設や商店会にも広がった。山中湖村山中の村営温泉施設「紅富士の湯」では、くす玉を割って世界遺産登録を祝い、村は、山中湖畔で富士山にちなんだ223発の記念花火を打ち上げた。

 富士山5合目や地元商店街では世界遺産登録を祝うポスターや看板が店頭に登場。富士河口湖町船津の山岸旅館では、館内放送で世界遺産登録を宿泊客に報告した。外川凱昭社長は「登録をきっかけに国内外からの観光客が増えるだろう」と観光の活性化に期待した。 〈地域報道部、報道部〉


登録推進の故内藤成雄さん長男 「天国で喜んでいる」

 「富士山が世界遺産に決まったよ」。山梨県側で登録運動を推進した富士吉田市の故内藤成雄(みちお)さん=享年(87)、写真=の長男雄一さん(57)は22日、審査結果を遺影に報告した。雄一さんは「登録は父の悲願。天国で大喜びしていることでしょう」と目を潤ませた。

 医師で県文化協会連合会長などを歴任した内藤さんは、日本が世界遺産条約に批准する前の1978年から富士山の自然保護活動に尽力。92年から世界自然遺産登録を目指し、山梨、静岡両県の自然保護団体でつくる「富士山を世界遺産とする連絡協議会」の山梨県代表として、県への陳情活動などを展開した。

 「富士山は、世界が守るべき貴重な資産であることを地元の多くの人に知ってほしい」。内藤さんはあらゆる場で、霊峰の価値と重要性を訴えた。

 雄一さんは、内藤さんの思いは95年9月、国が検討していた世界自然遺産最終候補から富士山が外れた際に書いた手記にあると言う。「世界遺産条約に登録させるためには、富士と自然と文化を命がけで守るという強い意志表示を世界に誓うことである」 〈渡辺浩人〉

(2013年6月23日付 山梨日日新聞掲載)
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