1つ前のページに戻る

2022.4.07 所属カテゴリ: 富士山噴火に備える / 防災キーワード /

富士山広域避難計画の中間報告(2022年3月)

 山梨、静岡、神奈川3県などでつくる「富士山火山防災対策協議会」は2022年3月、噴火に備えた避難計画の一部を改定し、中間報告として公表。溶岩流からの避難に際して渋滞発生による逃げ遅れを防ぐため、「一般住民は原則、近くに徒歩で避難する」との新方針を示した。ハザードマップの改定で、火砕流の発生や、溶岩流が3時間以内に到達する可能性がある山梨、静岡両県の推計人口が従来の約7倍に増えたことを踏まえた対応。避難のタイミングをずらすことで渋滞発生を回避するため、避難対象エリアの区分は従来の5分割から6分割に変更した。

 協議会は2021年3月にハザードマップを改定したことを受け、検討委員会で2014年に策定した避難計画の見直し作業を進めていた。今回の中間報告に旅行者や登山客への対応などを盛り込み、2022年度中に最終報告書をまとめる方針。

避難エリア6段階に

 計画で設定した避難対象エリアは、改定前は5段階だった避難対象エリアを6段階に見直した。3時間以内に溶岩流が到達するエリアは改定前は第2次避難対象エリアとしていたが、第3次避難対象エリアとして独立させた。このエリアの住民は噴火レベルにかかわらず噴火後に必要な範囲で避難を求める。

 改定前は第2次避難対象エリアとして、火砕流や大きな噴石の発生、3時間以内に溶岩流が到達することが想定される場所を指定。噴火前であっても噴火警戒レベル5(避難)までにエリア内の全住民に避難指示を出していた。

 今回の改定は、3時間以内に溶岩流が到達するエリアは第3次避難対象エリアとして独立させたことがポイント。要支援者の避難のタイミングはレベル4(高齢者等避難)と改定前と変わらないが、一般住民は噴火レベルにかかわらず、噴火後に必要な範囲で避難すると変更した。

 2021年3月に公表された改定版ハザードマップでは、大月市や上野原市にも溶岩流が到達する恐れがあることが判明。これに伴い第6次エリアの最終到達時間は17日間遅らせ、最大で57日間に変更した。

 想定火口範囲内となる第1次避難対象エリアは、噴火警戒レベル3(入山規制)で一般住民、要支援者にかかわらず避難させる。溶岩流の到達時間が3時間以上となる第4~6次は噴火後に溶岩流の流下方向を確認し、必要な範囲で避難を開始するとしている。

 避難対象エリアは、改定版ハザードマップで想定される全ての火口からの溶岩流の到達を考慮して作成しており、一度の噴火で範囲内の全ての人に危険が及ぶことを意味しない。噴火後に火口が特定されれば、溶岩流の流下範囲外の住民は避難する必要がない。

山梨県内 避難対象12万人超

 中間報告によると、山梨、静岡、神奈川3県の第1~6次避難対象エリア内の推計人口は80万5627人。このうち山梨は12万4078人。静岡が57万4790人、神奈川が10万6759人。山梨県内は10市町村が対象となっており、富士吉田市が最も多い4万5348人。次いで富士河口湖町が2万5288人、都留市が2万2476人だった。最も少なかったのは身延町の8人。

 ハザードマップの改定で火砕流の発生や、溶岩流が噴火から3時間以内に到達する可能性がある早期の避難が必要となる第1~3次エリアの人口は、山梨県内の富士吉田、忍野、山中湖、鳴沢、富士河口湖の5市町村と静岡県内の5市町で約11万6千人となり、改定前に想定していた約1万6千人の約7倍に膨らんだ。山梨県内の対象は3万4727人。

 山梨県内の第1~6次の対象エリア別の人口は、噴火口になる可能性がある第1次が2人、火砕流や大きな噴石が発生する可能性がある第2次エリアが3823人、3時間以内に溶岩流が到達する可能性がある第3次エリアは3万902人。溶岩流の到達が3時間以上の第4~6次は計8万9351人。

「車から徒歩へ」

 協議会は一斉に車で避難することで渋滞が発生し、逃げ遅れが生じる恐れがあると判断。一般住民は噴火前に避難する場合を除き、市街地では原則、近隣の集結場所や避難場所まで徒歩で避難することを推奨。2021年に公表した改定版のハザードマップで溶岩流予測が大きく変わり、山梨、静岡両県で早期の避難対象者(第1~3次エリア)が7倍に増加。渋滞発生で逃げ遅れが続出しかねないことから、徒歩避難の推奨に傾いたとみられる。一方で、高齢者や障害者など要支援者は優先的に道路を利用してもらう。徒歩避難を採用するかは自治体が判断する。

 溶岩流到達が噴火3時間後~57日後の第4~6次エリア(神奈川県を含む)についても、必要に応じて徒歩避難を推奨する。このほか、想定火口地域や大きな噴石、火砕流の発生想定地域は「全員が噴火前に車で避難する」との従来の方針を維持した。

 改定前の広域避難計画では自家用車での避難が基本とされており、方針転換を住民に周知することも課題。

「広域避難計画」の名称変更

 協議会は、噴火に備えた避難計画の名称を変更する方針を大筋で決定。正式名称はこれまでは「富士山火山広域避難計画」だったが、「富士山火山避難基本計画(仮称)」に改める。

広告