富士山を世界文化遺産へ
山梨県知事 山本栄彦
凛とした美しい姿の富士山は、日本を代表する名山です。
周辺には原始林をはじめ、洞窟や溶岩樹型などの貴重な天然記念物があります。また、富士山に発する地下水は湧水となって現れ、人々に恵みを与えてきました。このように、富士山とその周辺の優れた自然環境は、日本の宝として世界に誇れるものです。
富士山は古来から人の心を惹きつけてやみません。河口湖畔にある冨士御室浅間神社に伝わる「勝山記」の明応9(1500)年の条に、「富士山へ道者参ること限り無し」という記述があります。道者とは信仰のために富士山に登る人のことを言い、当時はかなり多くの人々が登っていたことがうかがえます。
また、吉田口登山道の起点にある北口本宮冨士浅間神社には、江戸時代に富士講から奉納された灯籠が参道に立ち並んでおり、ここを歩くと昔日の道者たちの足音や話し声が聞こえてくるような気がします。
富士講の信徒は、六根清浄を唱えながら富士山に登ったといいますが、これも霊峰富士に対する畏敬の気持ちの表れだと思います。
今、県立博物館では葛飾北斎の「冨嶽三十六景」展が開催されています。富士山は、万葉の昔から歌に詠まれ、1000年以上も前から絵画に描かれるなど、多くの芸術家たちの心に訴えかけてきました。
富士山の優れた自然美と、そこから生まれる人を惹きつける力は、信仰とともに数多くの芸術作品を生み出し、日本人の心のよりどころともなっています。
現在、山梨県では、静岡県や関係市町村と共同して、富士山を世界文化遺産として登録するための取り組みを行っています。こうした取り組みは、文化財の保護や環境問題への意識の高揚につながることはもとより、富士山の持つ魅力やその素晴らしさを、国内外の人々に、あらためて知っていただく絶好の機会であります。
環境の世紀といわれる21世紀において、「森の国・水の国やまなし」の役割はますます大きくなっていくものと思います。
この素晴らしい富士山の環境を保全し、人類共通の財産として、まさに「時空を超えて」後世に引き継いでいくことが、現在に生きる私たちの使命であると考えております。
(2006年7月1日付 山梨日日新聞掲載)