基調講演
「富士山世界文化遺産への道」
小田全宏さん 富士山を世界遺産にする国民会議・運営委員長
日本人にとって心の古里 自然含めた複合遺産願う
政府は今年1月に、日本として富士山を世界の遺産にしようと、ユネスコに提出する「暫定リスト」への掲載を決めた。
世界遺産は人類共通の宝物であり、過去から引き継がれた貴重な宝物である。家庭や国にも宝があるように、世界の宝をつくろうという目的で1972年に世界遺産条約が採択された。日本は1992年に批准した。
世界遺産には(1)文化遺産(顕著な普遍的価値を有する記念物、建造物群、遺跡、文化的景観など)(2)自然遺産(顕著な普遍的価値を有する地形や地質、生態系、景観、絶滅の恐れのある動植物の生体・生息などを含む地域)(3)複合遺産(文化遺産と自然遺産の両方の価値を備えている遺産)-がある。
昨年7月現在、文化遺産は644、自然遺産は162、複合遺産が24ある。
富士山の場合、文化遺産に該当する価値基準としては「顕著で普遍的な価値を持つ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品あるいは文学的作品と直接または明白な関連がある」という点だろう。
登録申請は山梨と静岡が文化庁に行い、2月1日には政府としてユネスコに暫定リストを提出した。
リストの中で準備が整った物件から、政府がユネスコ世界遺産センターに推薦して審査が始まる。審査は国際記念物遺跡会議(ICOMOS)による18カ月の調査が必要で、きょうあすに遺産登録されるものではない。暫定リスト入りしてなかなか動きがない例もある。今は2、3合目という状況だ。
また、世界遺産に登録されたからといって終わりになるものでもない。自然や人為的な問題から危機遺産も出てくるのが実情である。日本では既に登録された世界遺産が13あるが、厳島神社(広島)は台風などでしばしば被害に遭い、知床(北海道)でも自然界を取り巻く環境の変化などがみられ、永遠に守られている状況ではない。
富士山は日本人にとって心の古里である。芸術的にも文化的にも信仰的にも日本人と深くかかわっている。文学でも万葉集から始まり太宰治や正岡子規、夏目漱石も称賛してきた。
神道、仏教、山岳宗教が混然一体となった富士講もある。富士講では富士に登り、自然と一体となることで魂の浄化を図った。こうした信仰は明治、大正、昭和まで盛んにみられた。
芸術作品でも横山大観や葛飾北斎が富士山を描いている。北斎の作品は海外の有名な画家にも影響を与えた。富士山については、やがては文化遺産と自然遺産の両方を含めた複合遺産になればいいと願っている。
「富士山を世界遺産にする国民会議」は2005年から申請に向けた運動を展開し、皆さんの力で暫定登録にこぎ着けた。これから「富士山基金」活動を本格化させ、その浄財で富士山を守っていきたい。皆さんも協力してほしい。
富士山を世界遺産にすることだけが目的なのではない。それを契機に日本が一層素晴らしい国になり、さらに世界中の環境保護や平和につながっていくことを期待する。
小田 全宏(おだ・ぜんこう)さん 東大卒業後、松下政経塾に入塾。松下幸之助氏の指導のもとで人間教育を研究。ルネッサンス・ユニバーシティ代表取締役、NPO法人日本政策フロンティア理事長を務める。
(2007年2月22日付 山梨日日新聞掲載)