世界文化遺産登録へ官民一体
「暫定リスト」登載に重点
富士山の世界文化遺産登録へ向け、山梨、静岡両県の合同推進会議や国民会議など官民の推進体制が整ってきた。日本人の「心のふるさと」や「信仰の山」が醸し出す文化的景観の価値に着目。「人類共通の宝」として後世に引き継ぐことを狙っている。当面は世界遺産推薦候補となる暫定リスト入りを目指し、両県などは官民一体の運動で、管理保存対策の徹底や地元の合意形成などの課題に取り組む。
「日本一の名峰に変わりなく、(今後は)文化遺産として登録を目指す」。山本栄彦知事は2003年5月に富士山が自然遺産候補地に漏れた直後、県議会で“復活登録”を目指す方針を表明した。
登録実現へ向けた機運が高まるきっかけとなったのが、昨年4月に政治、経済、文化などの各界代表者で発足した「NPO富士山を世界遺産にする国民会議」。中曽根康弘元首相が会長を務め、山梨、静岡両県知事が特別顧問に就任。関係諸団体と連携しながら、シンポジウムや署名などの活動を展開している。
行政側も登録へ向けた準備や推進体制づくりを本格化。山梨県では、昨年9月に県教委が特別名勝・富士山の保存管理計画の見直しに着手。10月には、環境保全、文化財保護などの施策を進める県の推進本部を設置した。
地元市町村の推進体制整備では、11月に県と富士吉田市、南都留郡富士河口湖町、鳴沢、山中湖、忍野村の推進協議会が発足した。
また山梨、静岡両県は、昨年12月19日に合同推進会議を設置して連携強化を確認している。
今後の進め方としては、両県は、次の国の検討会で5-10年間に世界遺産登録に推薦する物件をまとめる「暫定リスト」に登載されることを当面の目標に据えている。国の検討会は、2000年度を最後に開かれていないが、県は「2007年前後に開催される」とみて準備を進める。
登録へ向けては、(1)遺産名を決めるなど文化遺産としてのストーリーづくり(2)文化財として登録を目指すコアゾーン(核心地域)(3)周辺の保護すべきバッファゾーン(緩衝地域)の範囲の決定-などが求められている。
世界自然遺産候補に落選した際に「利用されすぎて改変が進んでいる」ことが問題点として指摘されたことを踏まえ、適切な管理保存計画の策定が重要な課題。環境保全と、観光、地元振興との調整も必要で、地元住民の合意形成が不可欠となる。
両県は2006年度、学術調査委員会や専門部会の設立・運営のほか、登録範囲の決定、暫定リスト策定のための概略調査や暫定リスト概要版の作成、国際シンポジウム開催などの事業を予定。登録範囲は来年秋をめどに決定を目指す。
世界文化遺産登録まで |
山梨県推進本部の設置(2005年10月) |
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山梨県推進協議会の設置(同年11月) |
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山梨、静岡両県の合同推進会議の設置(同年12月) |
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文化遺産名や登録範囲などを決定(06年秋ごろ) |
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両県の要望を受け文化庁が世界遺産委員会に暫定リストを提出 |
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文化庁が推薦書を作成 |
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外務省が世界遺産委員会に推薦書を提出 |
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国際記念物遺跡会議(ICOMOS)が現地調査を含めて審査 |
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世界遺産委員会が審査、登録の可否を決定 |
○ズーム
世界文化遺産 建造物や遺跡などを国際的に保護するため、1972年にユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づき、世界遺産委員会が登録する。「記念工作物」「建造物群」「遺跡」に分けられ、芸術や信仰など精神活動の母体となる「文化的景観」も対象。登録には(1)顕著で普遍的な文化的価値がある(2)登録申請区域に文化的価値の大部分を含む(3)適切な保護管理の仕組みがある-などの条件を満たす必要がある。
(2006年1月1日付 山梨日日新聞掲載)