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「富士山世界遺産登録へのみちのり 明日の保全管理を考える」

「富士山世界遺産登録へのみちのり 明日の保全管理を考える」 富士山の世界文化遺産登録へ向けた歩みをまとめた新著「富士山世界遺産登録へのみちのり 明日の保全管理を考える」(ぶんしん出版)。富士山の世界文化遺産登録作業に携わった国や県、市町村の実務担当者が登録の経緯を記録。世界遺産登録実現に向けた苦難の歩みを振り返るとともに今後の課題を後世に伝える。登録によって観光が優先されることへの懸念を示しながら、保全の在り方を問い直す一冊。

 「世界遺産登録前の富士山」「富士山世界遺産登録実現へのみちのり」「富士山ヴィジョンの展開」の3章構成。1章では世界遺産登録前の富士山の自然保護や文化的景観の保全を歴史的に整理。2章は観光開発や登山者増加に伴う環境問題やごみ問題、構成資産の選定過程などを総合的に回顧する。3章は世界遺産登録を受けて新時代の課題と展望を探る。

 監修・執筆者の一人は富士山世界文化遺産山梨県学術委員会委員長を務めた清雲俊元さん。県内からはほかに八巻与志夫、村石真澄、森原明広、石原盛次、杉本悠樹、井沢英理子、高室有子、出月洋文、堀内真の9氏が執筆に加わった。

 釈迦堂遺跡博物館副館長の八巻さんは富士北麓開発と保護の歴史を振り返り、明治時代に県内を襲った大規模水害と富士山の恩賜林の関係性や近代以降の登山道整備、昭和20年代に県政で浮上した、5合目と山頂を結ぶ地下鉄道「モグラケーブル・エレベーター」計画などを詳述。県立博物館学芸課長の森原さんは八巻さんと共同で山梨県側の構成資産選定の過程を振り返っている。

 富士山が世界自然遺産ではなく文化遺産として登録された経緯や意義も解説。世界遺産の副題「信仰の対象と芸術の源泉」にも目を向け、富士山信仰の巡礼路の特定作業や難航した富士五湖の史跡指定に向けた取り組みなど、世界遺産登録の秘話も収録する。

 コラムも多く収録し、関東大震災の影響で「お釜池」湧出地がずれた忍野八海、夏目漱石や太宰治らの作品で描写される富士山、葛飾北斎の浮世絵「冨嶽三十六景」をはじめとする絵画に描かれた富士、富士山信仰の歴史などを多面的に紹介する。

 富士山の普遍的価値を守っていくために求められる、人々と富士山の持続可能で良好な関係性の維持についても提起する。334ページ、1980円。

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