1つ前のページに戻る

「富士山世界遺産へ」<上> 再挑戦から6年

政財界支援手続き加速 他候補抜きスピード推薦

 山梨、静岡両県が世界文化遺産への登録を目指す「富士山」は、政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦書暫定版を提出したことで世界の舞台へ上った。国内審査で自然遺産に“落選”し、文化遺産を目指し再挑戦を始めて6年。ここまで至った経緯と登録審査に向けた焦点をまとめた。

政府がユネスコに推薦書暫定版を提出した富士山

世界文化遺産登録に向け、政府がユネスコに推薦書暫定版を提出した富士山=山日YBSヘリ「ニュースカイ」(NEWSKY)から

 「富士山は日本人のシンボルだけに、全国の期待も大きい。『途中で挫折してはならない』というプレッシャーがあった」。「富士山」の推薦書提出から一夜明けた29日、横内正明知事は世界の舞台にたどり着くまでの取り組みを振り返り、安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 登録に向けたスケジュールを2度にわたって変更するなど、曲折の末、ユネスコへの推薦までこぎつけた「富士山」。だが、国内的に見れば、文化庁の公募に名乗りを上げた文化遺産候補の中では最も早く推薦にめどが付いた。

 今回、「富士山」とともに、政府がユネスコに推薦した「武家の古都・鎌倉」(神奈川県)は、国内の文化遺産候補を載せた暫定リストに入ってから推薦書の提出まで19年かかったが、富士山はわずか4年。山梨、静岡両県が推薦書原案を文化庁に提出してからもスムーズに手続きが進み、「鎌倉」と同じ年に暫定リスト入りした彦根城を追い抜いた格好だ。

「国民会議」

 富士五湖の文化財指定など厳しいハードルを抱えながらも手続きがスピーディーに進んだ背景にはさまざまな要因が絡む。その一つに、中曽根康弘元首相が会長を務めるNPO法人「富士山を世界遺産にする国民会議」の存在がある。

 2005年に発足した国民会議は中曽根元首相をはじめ、日本経団連会長や経済同友会代表幹事、日本青年会議所会頭など政財界の名だたる面々がメンバーに名を連ねる。山梨、静岡両県が文化遺産登録活動に着手する前に発足し、活動を強力に後押ししてきた。他の文化遺産候補は各地域が推す側面が強いのに対し、富士山は「日本の象徴を世界遺産に」という掛け声のもと、“オールジャパン”で目指す形が取られることになった。

 こうした側面は、推薦書原案の内容を審議した山梨、静岡二県学術委員会の構成からも見て取れる。要となる委員長には遠山敦子元文部科学相が就任。県幹部の一人は「元首相や元文科相が注目するので、当然、登録作業にも力が入った」と心境を明かす。

狭まる門戸

 世界文化遺産登録が年々厳しさを増し、門戸が狭まる中、国としても態勢の充実を図っている。文化庁は2年前に世界文化遺産室を新設。文化遺産候補の審議を行う文化審議会の中に世界文化遺産特別委員会も設けた。現在、同特別委の委員長を務める五味文彦委員長も「政府が世界遺産登録に本腰を入れて取り組むようになった表れ」とみる。

 国内手続きは異例のスピード決着となった富士山。文化庁の担当者はその理由について、こんな見方を示す。「専門家や政治家も含めた多くの人の期待感が有形無形に影響したのではないか」

(2011年9月30日付 山梨日日新聞掲載)
広告