「フジサンDX」
山梨県が富士山火山防災対策に関する研究を進めるため、東京大や民間企業などと共同事業体「フジサンDX」を設立。富士山で2021年10月から、第5世代(5G)移動通信システムの利用に関する実証実験をスタート。総務省から約1億5千万円の研究事業費の補助金を受けている。
県防災危機管理課によると、共同事業体を構成するのは県、県富士山科学研究所、東大、NECネッツエスアイ、インターネットイニシアティブ(ともに東京)、ヤマレコ(長野)、NPO法人中央コリドー情報通信研究所(東京)の7者。中央コリドーが代表を務める。
事業体は10月中旬、富士山5~7合目にローカル5Gの基地局を設置し、低温や強風、高所など過酷な環境でも高速通信が可能かなどを検証。通信の安定性が確保されれば、ドローンの映像を麓とリアルタイムで共有したり、映像を人工知能(AI)で分析して登山者数を把握したりするなど、火山防災に活用する。
研究は8月末、総務省のローカル5Gの開発などに関する事業に採択された。事業は安全安心の登山観光を国民に提供することを目的としている。
研究を巡っては山梨県と東大大学院工学系研究科・東大工学部が6月に協定を締結。富士山を舞台に、ドローンやAIなどの最新技術を使用した防災システムを共同研究していた。
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2022年8月「富士山で高速通信は可能」との結果を公表。データ量が大きい映像なども送信できる環境を整えられる余地があり、火山防災対策や登山者の安全確保に活用できるという。
県富士山科学研究所によると、今回の検証で、基地局アンテナの設置位置の調整などを行えば、電波が山の傾斜の影響を受けないように工夫できることを確認。6合目に設置した4Kカメラでは、軽装の登山者や疲労によって立ち止まっている登山者も把握できたという。
5~7合目で映像や音声の伝達ができることが確認できたため、遠隔地からの診療の可能性も広がったという。大容量データを表示できるアプリの開発によって、災害発生状況を可視化し、噴火時の避難につなげる方法も現実味を帯びてきた。
フジサンDXは「ローカル5Gの活用により、正確な状況把握に基づく登山者への的確な危険周知、安全・安心な観光登山に寄与することを確認できた」と総括。
一方、実証実験で使った光ケーブルは雪崩の恐れがある場所で撤去を余儀なくされた。このため「厳しい気象条件下で十分な強度を確保するための設計や施工などについて検討が必要」とも指摘。電源のない富士山では自家発電などで実験を行ったが、通年運用するには電源も必須という。
今後、本格運用に向けて、防災や登山者の安全確保などにどう活用していくかをまとめた具体的な実用化計画を2026年度までに検討する。