富士登山 感染対策に疑「?」
間隔確保→渋滞/マスク→高山病リスク
県など策定マナー 非現実的の声
2年ぶりの開山を目指す今夏の富士山登山で、国や山梨県などでつくる協議会が示した新型コロナウイルス感染症対策の登山マナーに、地元登山ガイドから「現実的でない」との声が上がっている。マナーでは登山者同士の間隔確保やマスク着用を要請。ただ、国内最高峰で酸素が薄く登山道が狭いだけに、地元ガイドなどは「登山道が渋滞する」「マスク登山は高山病のリスクがある」と指摘する。現実に即した対応を推奨しようと、ガイドらでつくる組合は独自のマニュアルの作成に乗り出した。
「2メートルの間隔を空けたら大渋滞が発生する。マナーを守らない登山者で秩序は乱れ、密は避けられないのではないか」。登山ガイドの男性の一人は県などが作成したマナーに苦言を呈する。マスクなどの着用についても「標高の高い富士山ではマスクの着用は危険で、現実的に難しい」とこぼす。
協議会は今年3月中旬、同行者以外の登山者と2メートル以上の間隔を空けたり、間隔を保てない時や登山ツアーの同行者間、人とすれ違う場合にはマスクを着用したりする登山マナーを策定した。
ガイドらでつくる富士吉田市案内人組合によると、登山道での2メートル以上の間隔の確保は、特に吉田口と須走口登山道が合流した9合目での渋滞を助長する可能性があるという。ガイドが先導するツアー客に間隔確保を徹底させたとしても、個別で訪れる一般登山者がその間隔に入り込むように歩くことが予想され、「登山者全員が間隔を空ける共通認識を持たないと実現しない」(関係者)という。
運動生理学の専門家はマスクの着用について、標高3千メートル以上で発症することが増える高山病など人体へのダメージを懸念。山梨学院大スポーツ科学部の小山勝弘教授(運動生理学)は「富士山は平地に比べ酸素が薄く、体にも負担となる。マスクの着用で呼吸をしにくくなり、人体へのダメージは避けられない」と強調。「登山規制など登山者をコントロールし、密を回避する施策を考えるべきだ」と提言する。
こうした指摘に対し、県の担当者は「マナーは強制ではない。ガイドの方々の知恵を取り入れながら、実施してもらえるとありがたい」と述べるにとどめた。
富士吉田市案内人組合は5月中旬の完成を目指し、山小屋のガイドリーダーからの意見を基にした独自マニュアルの策定を進めている。団体でのトイレ休憩時の対応や個人登山者への注意喚起なども盛り込む予定だ。ガイドについても飛沫を飛ばさないよう小型拡声器やプラカードを使った案内方法を検討している。
ガイド歴15年の小山田俊夫組合長(75)は「富士山でクラスターを出すわけにはいかないので登山ガイドの責任は大きい。できる限り事前に対策を考えておきたい」と話している。
(2021年5月5日付 山梨日日新聞掲載)