美しい富士山の姿を守れ
大沢崩れ対策本格化 建設省
富士山(標高3776メートル)の西側斜面で大規模に起こっている「大沢崩れ」を食い止め、美しい富士の姿を守ろうという試みが建設省・富士砂防工事事務所(静岡県富士宮市)の手で進められている。
今のところ崩壊部の一部に落石防止用の鋼鉄製網を張ったり、植生などをする調査を目的とした試験工事の段階だが、ほぼ技術的なめどは立っており、建設省は1、2年後に本格工事に着手する考えだ。とはいえ、大沢崩れは約千年前から断続的に起きている自然現象。人間の英知がどこまで通用するか、いよいよ気の遠くなりそうな大自然への挑戦が始まる。
大沢崩れは富士山西側の山梨、静岡県境に沿って頂上直下から標高2200メートル付近まで、約2.1キロにわたって広がっている。Vの字にえぐられた沢は大きいところで幅500メートル、深さ150メートルにも達している。
崩壊現象は現在も絶えず起こっており、崩壊土砂量は年間、霞ヶ関のビルの半分近くに相当する20万立方メートルにもなるという。
崩壊は、山頂付近の地層構造が崩れやすい溶岩と火山砕屑(くず)物(スコリア層)のサンドイッチ状になっているのが要因だが、富士砂防工事事務所ではこれまでは、富士山の中腹にたい積した多量の土石が、大雨が降った時などに起こす土石流からから下流の人命、財産を守ることを優先し、山ろく部の砂防工事を中心に進めていた。
調査を兼ねた試験工事が始まったのは昭和59年から。標高2100メートル付近の谷間で、落石防止のためのダムや鋼鉄製の網などを設置、がけに直接植物の種を張り付ける吹き付け緑化工事などが行われた。
現場は国立公園特別地域に指定されており、工作物の設置には厳しい制約がある上、工事用道路が造れないことから資材の運搬はすべてヘリコプター頼り。しかも、工事は雪のない8月から12月までに限られ、落石が絶えずある中で行われる難工事だったが、これまでの試験工事の結果では「大沢崩れ防止は技術的に可能」との結論だ。 【当時の紙面から】
(1989年4月29日付 山梨日日新聞掲載)