山中湖のハリモミ純林 立ち枯れに酸性雨説
立ち枯れが進んでいる南都留郡山中湖村山中、沖新畑国有林の国指定天然記念物「山中のハリモミ純林」の症状が、奥日光や丹沢での酸性雨や酸性霧が原因とみられる立ち枯れ被害の症状と同じであることが6日までに、群馬県の自然保護グループの調査で分かった。
調査した群馬県の「森林(やま)の会」によると、樹林の先端部分の葉は落ち、下部に辛うじて残った葉も赤茶色に変色。白骨のようになった樹木も目立つ。枯れは56.6ヘクタールの林全域でみられるという。
ハリモミは1種類の樹木が85%以上を占める「純林」として群生するのは極めて珍しく、この林は純林として学術的にも貴重。山中湖の北側の鷹丸尾溶岩流の上に高さ20メートルにも達するハリモミの高木が並んでいる。
1916年(大正5年)、ハーバード大学のヘンリー・ウィルソン教授が富士山麓を訪れた際、「世界的にも類のないもの」として絶賛、学界に発表した。文化庁は1963年、国の天然記念物に指定している。
1960年以降、立ち枯れが目立ち、モミ、アカマツの混入もあって純林の姿は薄れつつある。甲府営林署によると、当初約2万本あったハリモミは1973年には4300本まで減少した。しかし原因については、はっきりと分かっていない。
農林省林業試験場(現在、森林総合研究所に名称変更)は1976年の実態調査で、台風などの風害や虫害を原因として挙げたが、明確な断定は避けている。
同営林署は「この枯れは自然の枯れで森林が変わる途中の姿だ」としている。
だが、幼樹までもが枯れ始めているのを確認した同会は「奥日光、丹沢の大山、富士山周辺と、枯れは約35年前の高度経済成長期の始まりと一致する。大気汚染物質を含んだ酸性雨や酸性霧が樹木に深刻なストレスを与えているようだ」と話している。
気象大学校や慶応大のグループが1990-92年に実施した調査によると、静岡県御殿場市の太郎坊で採水した雨のpHの年間平均は4.9、山頂では4.4で、通常の雨の5.6より強い酸性度を示した。
富士北麓でも植物の枯れと酸性雨の関連を指摘する声は以前からあるが、データを示して実証した例はないという。識者の中には「酸性雨が原因であればハリモミだけでなく地域全体の植物が枯れるのではないか」「植林によって植物の密度が変わるなど複合的な要因によるのではないか」との声もある。 【当時の紙面から】
(1994年11月7日付 山梨日日新聞掲載)