富士山 世界遺産へ準備急ピッチ
鍵握る構成資産
山梨と静岡両県は2008年、3年後の富士山世界文化遺産登録実現に向け、準備作業を本格化させる。両県は現在、遺産の範囲に含める資産候補として富士山以下計65物件を列挙。この中には、構成資産の要件である国の文化財に指定されていない候補もあるため、県や市町村は今後、文化庁と協議しながら、指定申請作業を進める。既に国文化財に指定されている候補についても保存管理計画の策定を急ぐ。
2011年登録を実現するためには、今年からの準備作業をいかにスムーズに進めるかが重要となってくる。
▼関連性の証明、国指定必要/景観保全条例の制定も課題
山梨、静岡両県は昨年、各県の学術委員会や2県合同会議を通し、資産候補をほぼ決めた。両県共通の資産候補には富士山など3物件を決定。山梨県側は北口本宮冨士浅間神社や忍野八海、三ツ峠山など計37物件、静岡県側は冨士浅間神社や湧玉池など計25物件を選定した。
トータル65物件を実際に構成資産とするためには富士山との関連性の証明だけでなく、国から重要文化財や天然記念物、特別名勝などに指定される必要がある。だが山梨県側の資産候補37物件のうち、富士講信者を受け入れた御師「外川家」住宅(富士吉田市指定有形文化財)や河口浅間神社の七本杉(県指定天然記念物)、三ツ峠山(未指定)など13物件はまだ未指定の状況だ。
未指定物件は静岡県側の資産候補にも含まれていて、両県や関係市町村は2008年早々から調査費の予算化作業に着手。4月以降、文化財の指定範囲の調査や地図の作製、指定のための推薦書の作成作業などを進める予定だ。指定は市町村から県、国と徐々にステップアップするのが通例であるため、未指定の候補はほぼ1年以内に、県や国の指定を連続的に受けていく“離れ業”を実行する必要が出てくる。構成資産に義務付けられる保存管理計画の策定も同時並行で進める。
既に国指定となっている候補にも課題はある。国指定となっている山梨県分27物件(共通を含む)のうち、富士山など7物件を除く17物件は新規に保存管理計画の策定が必要。このほか景観保全条例を新たに制定しなければならないのは、国指定天然記念物の忍野八海。所在地が国立公園に入っていないため、条例で独自に緩衝地帯などを設定し、景観を守る対策が求められる。身延町の甲斐金山遺跡中山金山も富士山との関連性の調査、証明が必須条件だ。
文化財の国指定や保存管理計画策定が順調に進めば、2009年度以降、資産候補を素材に富士山の価値を証明する推薦書を作成し、国から国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出。2010年度に調査・諮問機関の国際記念物遺跡会議(ICOMOS)の現地調査を受け、2011年夏の世界遺産会議で「登録決定」を目指す。
▼植物、展望地…新たに12物件 フジマリモ、天下茶屋を追加
富士山が日本の世界文化遺産候補に選ばれてもうすぐ1年-。この間、県と市町村の協議で遺産範囲に入る資産候補は12物件増えた。山岳や展望地が多いのが特徴。中には文化遺産との関連性がとっさには浮かばない天然記念物「フジマリモ」なども追加されている。
12物件のうち8物件を富士山の展望地や周辺の山岳が占める。文化庁から、芸術や文学作品を生む源となった展望地や周辺の山岳、丘陵地帯の取り込みを求められたためで、「鎌倉街道・御坂城の展望地」のほか、「天下茶屋および太宰治文学碑周辺の展望地」を新たに追加した。
鎌倉街道は中世末期以降、富士信仰の行者の往来があったとされ、天下茶屋は作家太宰治が滞在し、「富嶽百景」の舞台に。文学碑に刻まれた一節「富士には月見草がよく似合ふ」が広く知られていることも選考理由の一つとなった。
山岳では首都圏からの登山者が多い三ツ峠山や、富士山頂からの日の出「ダイヤモンド富士」のスポットで知られる竜ケ岳、山梨と静岡、神奈川3県にまたがる三国峠などが挙がった。いずれも富士山の眺望が優れている点を評価した。
このほか「忍草富士浅間神社本殿と棟札」「北口本宮冨士浅間神社拝殿と幣殿」など有形文化財も新たに加わったが、変わったところでは富士山の伏流水で育つ「フジマリモ」。県世界遺産推進課は「植物分布上貴重な植物をはぐくむ富士山の自然環境を象徴していて、遺産価値を高める素材」と説明している。
今後、地元合意ができれば、富士五湖も候補に加わってくる可能性がある。
▼富士北ろくのNPO法人や県ムード盛り上げ 定期的に小冊子を配布/出張説明で登録作業PR
地元富士北ろくではエコツアーのガイドを行うNPO法人などが連携し、世界文化遺産登録に向け住民の関心を高めようと、定期的に小冊子を配布する活動を始めた。県も住民や事業者を対象に登録に関する出張説明会を開くなどムード盛り上げに躍起だ。
富士河口湖町のNPO法人富士山エコネット(三木広理事長)や、富士吉田市のNPO法人富士山サポートセンターの代表らは現在、月に2、3回、富士山世界文化遺産登録をテーマに座談会を開催。登録に伴う規制強化や観光面での利点、自然環境への影響など幅広いテーマで意見交換している。話し合いの詳細は小冊子「エコロ人」にまとめ、一般向けに配布。これまでに5冊を作成した。
三木理事長は「(富士山の)世界文化遺産登録は、国や県主導で進んでいる印象があるが、地元を活動範囲とし、行政とも一定のパイプがある私たちも地域住民へ情報発信していきたい」と話している。
一方、県は昨年11月、甲府ロータリークラブや、かながわトラストみどり財団を対象に登録作業の経過などを説明し、協力を求めた。
県世界遺産推進課は「登録推進には民間の協力が必要。今後も要請があれば積極的に出向いて、登録作業をPRしたい」としている。
(2008年1月1日付 山梨日日新聞掲載)