富士山を世界文化遺産に
山梨県知事 横内 正明
富士山は、日本の象徴として、国内だけでなく海外でも広くその名を知られており、その気高く秀麗な姿と圧倒的な存在感から、崇高で畏敬(いけい)の念を抱かせる霊峰として、今日まで多様な信仰の場となってきました。また、古くから詩歌や絵画をはじめ、さまざまな優れた芸術作品を生み出す母体となるなど、日本人の信仰心と美意識に深く結びつき、人々の心をひきつけてきました。
富士山が日本人の心のよりどころとして、いかに多くの人々に感銘を与えてきたかがよく分かる1つの証しに「ご当地富士」というものがあります。例えば、北海道には蝦夷富士(羊蹄山)、群馬県には榛名富士(榛名山)、鹿児島県には薩摩富士(開聞岳)など、日本全国、すべての都道府県にご当地富士が存在しています。さらに、海の向こうに渡った日本人移住者が、海外の山にまでご当地富士を名付けている例として、アメリカ・ワシントン州のタコマ富士(レーニア山)などもあります。
このように自然と人間が共生しながら、人々に多くの恵みを与え、愛され続けている富士山は、日本の宝として世界に誇れるものであり、日本を代表する文化的景観として、山梨や日本のみならず、人類共通の「文化遺産」として後世に引き継いでいくことが、私たちに課せられた使命であると考えています。
昨年6月、ニュージーランドで開催されたユネスコ世界遺産委員会において、「富士山」を世界遺産暫定リストに登載したことが報告されました。
今後は、文化庁・県・市町村がさまざまな調査や検討などを行った上で、世界文化遺産の中核となる構成資産(コアゾーン)と「富士山」を取り巻く緩衝地帯(バッファゾーン)の確定、構成資産とするための新たな文化財の国による指定、構成資産の保存管理の方法を定めた保存管理計画の策定などを行います。同時に、富士山の文化的価値の証明や国内外の類似資産との比較検討などを行います。そして、これらを整えたところで、世界遺産推薦書原案を作成して文化庁に提出し、これを受けて国がユネスコ世界遺産センターに登録申請書を提出することになります。
世界文化遺産登録は、この素晴らしい富士山の美しい景観、環境、伝統・文化を人類共通の財産として保護・保全し、次代へ継承していくことはもちろんのこと、県民が、富士山とその歴史的な遺産に誇りを持ち、その魅力を生かした活力ある地域づくりや世界への情報発信などにもつながるものです。
富士山の世界文化遺産登録が1日も早く実現できるように、多くの皆さまのご理解とご協力をいただくなかで、今後とも、地域住民や市町村、そしてすべての県民と協働して、取り組んでいきたいと思っています。
(2008年7月1日付 山梨日日新聞掲載)