文化庁・三谷室長に聞く
普遍的価値の説明必要 地元で資産の再評価を
富士山の世界文化遺産登録に向け、国の窓口となる文化庁。担当者として山梨、静岡両県の協議にもかかわってきた文化財部記念物課世界文化遺産室の三谷卓也室長に、登録に向けた課題や意義を聞いた。
-推薦書原案や保存管理計画の策定における注意点は。
富士山は知名度が高いが、顕著な普遍的価値である「信仰の対象」「芸術の素材」という2本柱を海外の専門家にも分かるよう、しっかり説明する必要がある。保存・管理の面でも、ボランティアや地元住民らがさまざまな取り組みを行っていることを訴えることが大事ではないか。
-世界遺産登録の審査は年々厳しくなっているが。
世界文化遺産は、国際記念物遺跡会議(イコモス)が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の委託で審査を行うが、5、6年前は新規提出案件の7~8割で「世界遺産に記載すべきである」との勧告が出たが、今年は19件のうち、1回で勧告が出たのは4件。審査自体が厳しくなったことは明らかだ。見た目で価値が分かる遺産から、推薦書をしっかり読み込んで価値が分かるような遺産の推薦も増えたため、必然的に普遍的価値証明の審査は厳しくなっている。
-富士山の登録活動をどう見ているか。
日本人だけでなく、外国人が見ても「富士山はすごい」と感じるようなので、その価値を学術的に説明することは非常に意味があると思う。富士山はぜひ世界遺産になってもらいたい。
-構成資産の選定状況は。
富士山は芸術の素材という点が一つの柱なので、視点場(眺めがいい場所)を非常に意識する必要があった。それはほかの遺産と異なる点であり、山梨、静岡両県とも慎重に議論を重ねてきた。国内外の専門家の話も参考にしながら話し合い、内容はかなり整理されてきている。
-構成資産となる富士五湖の文化財指定に向け、地権者同意などの課題も残るが。
世界遺産登録で最も大事な点は、遺産に対して万全な保護措置をとるという点。それを各国の法律に基づき実現することになり、日本では文化財保護法が該当する。これまで推薦してきた国内遺産も文化財保護法に基づく保護措置で成功していて、基本的な方法は今後も変わらない。湖の文化財指定はほとんど例がなく難しい面があるが、これを機に地元の持つ資産を再評価する契機にしてもらいたい。
(2010年10月18日付 山梨日日新聞掲載)