1つ前のページに戻る

富士山世界遺産登録 高まる期待

可否決定まで1年切る 今夏のイコモス調査、最大のヤマ場

 山梨、静岡両県が進める富士山の世界文化遺産登録は、その可否決定まで1年を切った。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が、「信仰の対象、芸術の源泉となった名山」との観点から富士山の価値を説明した推薦書の審査に着手。両県にとって残る課題は、イコモスが今夏にも行う現地調査への対応だけとなった。登録の可否が決まる世界遺産委員会は、来年6月17~27日にカンボジアの首都プノンペンで開かれる。登録実現という“頂”に向け、胸突き八丁にさしかかった。

富士山

山日YBS「ニュースカイ」(NEWSKY)から

 富士山の世界文化遺産登録審査が行われる世界遺産委員会の日程が決まった。委員国は日本やドイツ、インド、南アフリカなど21カ国。山梨県庁内には「やっとゴールが見えた」(幹部職員)との声が漏れ、来年の富士山の山開き(7月1日)に向けた登録実現に期待が高まっている。

 山梨、静岡両県は昨年7月下旬、富士山の価値を「信仰の対象、芸術の源泉となった名山」との観点から説明した推薦書原案を文化庁に提出。今年1月下旬には、政府が価値説明の骨格を生かしつつ修正を加えた正式な推薦書をユネスコに出し、舞台は海外の審査に移った。

 登録実現には原則、審査を経た上でイコモスから「登録勧告」を受けることが必須条件。イコモスは推薦書の内容などを基に文化遺産にふさわしいかを判断するが、中でも山梨、静岡両県にとって重要なのはイコモスの専門家による現地調査。富士山の場合、価値証明の材料となる構成資産25件を専門家が調査して回る。

 現地調査は両県の担当者が説明に当たる見通し。最大のヤマ場で、保全態勢が万全であることをいかに海外の専門家に伝えられるかが鍵を握るため、「超一流」の通訳を充てて臨む。両県は夏山シーズンで混雑する時期を避け、天候も安定している8月下旬の調査を想定し、文化庁と合同で専門家が回るルートの選定や各構成資産の説明内容の確認作業などを進めている。世界遺産にふさわしい景観をアピールするため、地元が協力して富士山麓の清掃や違法看板の撤去なども行っている。

 「平泉」(岩手県)のように再挑戦で登録をかなえた先例もあるが、山梨県世界遺産推進課の市川満課長は「できる準備はすべて終えた上で海外の専門家を迎え、ぜひ一度の審査で登録を実現させたい」と意気込む。この国のシンボルとも言える霊峰は、「世界文化遺産」の冠がつくその日を静かに待っている。

富士山世界遺産登録をめぐる動き

2003年5月 国の検討委員会で富士山が世界自然遺産の候補から落選
2005年4月 政財界人らでつくるNPO法人「富士山を世界遺産にする国民会議」が世界文化遺産登録を目指して発足
2005年12月 山梨、静岡両県が合同会議を立ち上げ、世界文化遺産登録に向けた活動を開始
2006年11月 山梨、静岡両県合同会議が富士山の世界遺産暫定リストへの追加を国に提案
2007年1月 富士山を世界遺産暫定リストに搭載
2009年1月 構成資産候補の見直しなどにより、当初予定していた2011年度の登録実現を断念
2010年7月 富士五湖の文化財指定作業が難航し、推薦書原案の提出期限を1年先送り
2011年2月 山梨県が富士五湖の「名勝」指定を文化庁に意見具申
2011年5月 文化財審議会が文科相に対し、富士五湖を名勝に指定するよう答申
2011年7月 山梨、静岡両県が富士山の価値を証明する推薦書原案を文化庁に地出
2011年9月 日本政府がユネスコに推薦書暫定版を提出
2012年1月 日本政府がユネスコに正式な推薦書を提出
(2012年7月1日付 山梨日日新聞掲載)
広告