地面から噴水/幻の湖出現… 異常増水で珍現象続々 富士五湖一帯
台風ラッシュによる増水が続く富士五湖では、湖を取り巻く一帯でも地下水位の上昇などがもたらす珍現象が各地で起きている。山中湖畔では井戸やボーリング跡から次々と水が噴き出し、西湖や河口湖畔では山の斜面から「しぼり水」がわいた。いずれも昭和58年の大増水時以来、8年ぶり。今年、五湖地方では8、9月だけで年間雨量の3分の2が降った。地元の人たちの間では当分、水をめぐる話題が尽きそうもない。
天然噴水
テニス民宿村で知られる南都留郡山中湖村の平野地区では、自家井戸を掘って飲料水にしているところが多いが、あちこちで井戸やボーリング跡から水が噴き出している。
ある民宿の庭では、地面から「ボコボコ」と音を立て、30センチ近い高さまで噴き上げていた。経営者は「数年前に地下50メートルのボーリングをした跡。噴出は台風18号が去った9月20日過ぎから2週間近くも続いている」と言う。
平野地区は山中湖畔で最も低い地域。地下水と湖水の水位がほぼ同じ高さにあって、湖面が上昇すると地下水面も連動して上がるためといわれている。忍野八海を抱える忍野村でも、十数年ぶりに井戸の水がわいたところがあった。
しぼり水
西湖畔の足和田村長浜、河口湖町浅川などでは、山の斜面や石積みの間から水が噴く現象が、台風18号の通過後に続いた。地元住民は「しぼり水」と呼んでいる。山から水がしぼられて出てくるように見えるからだ。
大雨で山の保水力の限界を超え、のみ込めなくなった水が斜面の穴や石垣の間から吐き出されてくる。しぼり水で湖畔の県道や国道が水浸しとなった。
地下水浸透
河口湖畔では建物の地下室へ湖水が染み出してしまう現象が起きている。河口湖町によると、8カ所から被害報告がある。いずれも岸辺に近い地下室やエレベーターの機械室。故障を避けるためエレベーターの運転を中止するところもある。
基準水位と大差ない高さに旅館が並ぶ大池公園周辺では、8月下旬から浸み出しが始まった。あるホテルでは地下通路の壁の継ぎ目から毎分約5リットルの水が噴き出している。経営者は「増水時は必ずこういうことがあるから、新築を機に作っておいた」と、地下室内の側溝を指さした。
幻の湖
精進湖から国道139号を挟んで約500メートル西側の青木ケ原樹海に、だ円形の小さな湖が出現した。東西に約100メートル、南北約20メートル、深さ約2メートル。通称「赤池」と呼ばれ、集中豪雨や長雨などで精進湖が増水する時に限り姿を現すため〝幻の湖〟の名もある。最近では昭和57、58年ごろと平成元年に確認された。
大月短大の田中収教授によると、赤池はかつて湖の一部だったが、戦後は精進湖の水位が下がったため干上がった。
精進湖畔の赤池売店から国道を挟んだ反対側にも直径約30メートルの池が出現している。
異常雨量
河口湖測候所によると、8、9月の富士五湖地方の雨量は計933.5ミリ。平年の年間雨量が1474ミリだから、その約3分の2が2カ月間で降ったことになる。 【当時の紙面から】
(1991年10月6日付 山梨日日新聞掲載)