河口湖でマリモ発見 生息の南限に 県が天然記念物指定へ
神秘の植物「マリモ」が河口湖で発見された。県文化財保護審議会(磯貝正義会長)では早速、調査し、県教育委員会に諮って県天然記念物の指定を急ぐ方針。さらに山中湖で昭和31年4月に発見されたフジマリモより河口湖は南にあることから、学術上マリモ生息の「南限」としての価値もあるため、国指定の天然記念物とするため、文化庁へ働きかけていくという。
河口湖でマリモを発見したのは南都留郡河口湖町小立、富士観光開発社員大石豊さん(37)。大石さんは19日午後3時半ごろ、湖畔を散歩していたところ湖畔に打ち上げられているものや岸辺に長さ50メートルにわたって浮いている緑色の藻(モ)が無数にあるのを発見した。その日は波が非常に高く、河口湖測候所から異常低温注意報が出されていた。最初氷に藻がからみついて浮いていると思っていたが、手にとってみると親指大の小さいものから直径15センチまでのものだった。「これはマリモだ」と直感し、バケツに採取、同町船津、県立富士ビジターセンターに調査を依頼した。大石さんは「河口湖にマリモが生息しているとは思わなかった。でも発見したときにはマリモだと直感した」と話している。
マリモは植物学的には緑藻類緑毛目シオクサ科でマリモ属に属している。シオクサ科の糸状体(長さ約3センチの藻)の集合体でできており、世界にほとんど生息地がなく、生息地は北半球の寒冷地帯の淡水湖に限定されている。この糸状体が長い年月をへてマリのような形状にからみあっているのがマリモだという。
本県では昭和31年4月18日、山中湖で同村、県環境保全審議会委員、同文化財保護指導員で現在同センターに勤務している杉浦忠睦さん(60)が発見した「フジマリモ」が有名だ。杉浦さんによると、河口湖のマリモは水深5、6メートルのゆう水のある岩盤の湖底にレキを核にしてできたもので、偏平になっているのが特色。ことし河口湖は昭和39年以来の減水といわれ、約1.2メートル水位が下がっている。それによって強い波の力で岩から遊離してきたものだろう―と推測している。
阿寒湖のマリモはアシを核にして糸状体が集合して大きくなったもの。山中湖は小さいレキを核にしたもので最大で直径4、5センチ。そのため関係者はフジマリモと同種のものであるとみている。しかし河口湖のマリモは偏平のマット状で直径15センチもの大きさになっている。約5センチの球状になるのに100年かかるといわれるマリモだけに、河口湖のマリモは2、300年は経過しているだろうとも推測している。
さらに今まで南限とされていた標高約1000メートルの山中湖より南に位置する標高約830メートルの河口湖で発見されたため、マリモ生息地の南限として注目されている。また、河口湖のマリモも青森県下北半島の在京沼、山中湖などのように乱獲されては―と関係者は早くも保護対策に神経をとがらせている。【当時の紙面から】
(1979年1月24日付 山梨日日新聞掲載)