富士山の入山料・富士山保全協力金
世界文化遺産に登録された富士山。登山、観光などで多くの人が訪れることにより、自然環境に多大な負担がかかっている。そこで、美しい富士山を後世に引き継ぐため、環境保全や登山者の安全対策などを図る目的で、山梨・静岡両県や富士山麓の市町村などが、登山者を対象に入山料(協力金)を徴収する制度。正式名称は「富士山保全協力金」。2013年夏に試験徴収を行い、2014年夏から本格導入。
【導入の経緯】 2008年、夏山シーズンに過去最多の登山者が訪れた一方で、ごみや登山道の破損、トイレの許容量オーバーなど自然環境への悪影響を懸念する声が上がったことを受け、議論がにわかに持ち上がった。同年9月、富士吉田市の堀内茂市長が「将来的には富士山の自然環境を保全する意味でも『入山料』を取ることも検討する必要がある」と口火を切り、横内正明山梨県知事や富士河口湖町の渡辺凱保町長も肯定的な考えを示した。
2009年夏、堀内市長が環境保全を目的に入山料の導入について「環境保全協力金」として実現を目指す意向を示すと、11月に行なわれた富士北麓6市町村の首長会議の席上で、各市町村が導入を目指すことを確認、徴収方法や金額などを検討する協議会を立ち上げることで合意した。
その後、富士吉田市職員によるプロジェクトチームの立ち上げ、地元自治体や関係団体の担当者による勉強会などが行なわれ、2010年4月に6市町村長と、観光業者・団体、恩賜林組合の代表、有識者など17人で構成した「富士山環境保全協力金協議会」が発足、具体的な内容の検討を始めた。
協議会が検討している「協力金」とは、支払いはその人の意思に任せる「任意」の形をとる。全国で同じような任意の支払いを求めている例は、青森県の白神山地「暗門の滝歩道」の利用者を対象にした協力金などがある。この協力金は地元の村や県など関係団体で構成する協議会が管理し、主に歩道整備や安全看板の設置などに使われている。
富士山では、5合目までの観光客、そこから山頂をめざす登山者など、訪れる目的はそれぞれ異なる。また、山梨県側では麓から5合目までをつなぐ富士山有料道路(富士スバルライン)は通行するのに2000円(普通車・当時)の料金を支払う必要がある。一方で、静岡県側との連携や富士山の世界文化遺産登録との関わりなど、こうした多くの事情も踏まえた上で、入山料の金額、導入開始時期、徴収方法、使途などを検討。当初は2011年7月からの導入を目指していたが、各論で調整が難航し、導入が延期された。
2011年10月に協議が再開。2012年1月には、山梨県を通じ、静岡県側に協議の場を設置するよう打診するも、両県での同時導入を求める意見もあったことから議論がストップ。2013年1月になって、両県知事が話し合いの場を持つ必要があるとの見解を示したことから、両県が直接協議をすることで合意。2月に関係市町村の事務担当者や観光業者らでつくる富士山世界文化遺産協議会の作業部会に協議の場を移し、両県による導入に向けた協議がスタート。6月には有識者による「富士山利用者負担専門委員会」を設置。両県とも入山料の徴収は2014年夏の本格導入を目標とし、2013年は試験徴収の形で、登山者から原則千円を任意で徴収することを決め、実施。2014年1月の富士山世界文化遺産協議会で、本格導入を正式決定した。
協力金の具体的な使い道については、[1]富士山の環境保全(臨時公衆トイレの設置など)、[2]登山者の安全対策(救護所の設置・運営、安全誘導員の配置、5合目インフォメーションセンターの設置運営、富士山レンジャーの増員配置など)を設定。
◇
2023年3月、富士山世界文化遺産協議会の作業部会が、富士山保全協力金(入山料)について、当面は現行の任意徴収を続ける方針を報告。制度を巡っては、入山料を支払わない登山者がいることに不公平感があるとの指摘があり、協議会が2019年、安全対策の財源確保、受益者負担の観点から自治体が使途を定めて独自に課税する「法定外目的税」として徴収する義務化に向けた検討を開始。作業部会内に専門委を設置して検討を続けてきた。一方で、事務にかかる人件費などが開山期間中に山梨、静岡両県の4登山口で計約3億円かかるほか、登山口以外からも入山可能なルートが存在し、徴収漏れをどう防ぐかなどの課題が浮上。コスト軽減などに向けてデジタル技術を活用した調査研究や、地元関係者との意見交換が必要と判断。当面は現行制度を維持し、協力率の向上を図るとしている。
2023年シーズンの実施概要・山梨県側
◇対象者
・富士山5合目から先に立ち入る来訪者
◇金額
・1,000円/1人(基本・任意) ※子どもや障がい者は協力いただける範囲の金額
◇支払方法(現地支払)
・吉田口6合目富士山安全指導センター付近
(受付期間) 7月1日~9月10日
(受付時間) 7月=9:00~18:00 8、9月=6:00~19:00
・富士スバルライン5合目総合管理センター前
(受付期間) 7月1日~9月10日
(受付時間) 5:00~20:00
◇支払方法(ほか)
・インターネット=山梨県庁のHP〈下記バナー〉から
(受付期間) 6月1日~9月10日
(受付時間) 24時間 ※9月10日は15:00まで
・コンビニエンスストア=セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ
(受付期間) 6月1日~9月10日
(受付時間) 24時間 ※9月10日は16:00まで
・事前納付=山梨県が発行する納付書を利用。(メールまたはFAXで申し込み。山梨県庁のHP〈下記バナー〉から)
◇記念品
・富士山保全協力者証 (木札)
※富士山保全協力者証の提示で施設などの優待特典が受けられます。
◇備考
・詳細は下記バナーから(山梨県庁のHPへリンク)
富士山保全協力金の実施結果
年度 | 実施期間 | 協力件数 | 金額 | 協力率 | 備考 |
2013 | 7月25日~8月3日 | 19,339件 | 19,157,950円 | 68.3% | 試験徴収 |
2014 | 6月20日~9月14日 | 116,237件 | 114,408,116円 | 55.8% | |
2015 | 6月1日~9月15日 | 71,796件 | 71,073,704円 | 42.6% | |
2016 | 6月1日~9月11日 | 98,040件 | 95,706,287円 | 64.5% | |
2017 | 6月1日~9月11日 | 98,254件 | 96,704,776円 | 56.9% | |
2018 | 6月1日~9月11日 | 88,456件 | 87,798,564円 | 58.6% | |
2019 | 6月1日~9月11日 | 100,804件 | 100,361,571円 | 67.2% | |
2020 | 実施なし | ||||
2021 | 7月1日~9月10日 | 35,464件 | 35,387,023円 | 65.2% | |
2022 | 7月1日~9月10日 | 68,448件 | 68,347,322円 | 72.8% | |
※山梨県側(実施期間中の協力者数、収入金額など) |