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「机上」の広域避難


計画、実効性に疑問符

 「これでは住民全員が避難できない」。昨年11月、富士吉田市向原1丁目の羽田裕さん(63)は北杜市の小淵沢中体育館を視察し、思わずため息をついた。

 富士山噴火時、全ての住民が国中地域などに避難する富士北麓の6市町村。富士吉田市は甲府や北杜など5市の160施設に4万6500人が避難する計画で、羽田さんが自主防災組織の会長を務めていた富士吉田市向原地区は小淵沢中体育館などに身を寄せる。

 ただ、体育館の広さは約1190平方メートル。市などが策定した広域避難計画では向原地区の住民約900人が避難することになっているが、羽田さんの目には、とても全員を収容できるだけの広さがあるようには見えなかった。

 山梨大地域防災・マネジメント研究センターの鈴木猛康センター長によると、避難所に収容できる人数は1人当たり畳2枚(約3.2平方メートル)程度を目安に算出できるという。これに基づいて試算すると、向原地区の住民約900人が避難するには3千平方メートル程度の広さが必要。鈴木センター長は向原地区の避難先について、「必要な面積の半分もない」と苦言を呈した。

足りない駐車場

 避難計画では、住民がそれぞれマイカーを使って逃げることになっている。ただ、道路に積もった灰でタイヤが空転し、通行できなくなることが予想されるほか、避難を急ぐ車で道路が渋滞することも指摘されている。これまで行った訓練でも避難する住民の車で長い列ができた。

 【写真】富士山噴火を想定した広域避難訓練で、避難所に向かう車で渋滞する道路=富士吉田市内(2016年8月)

 仮に車で“脱出”できたとしても、避難先に十分な駐車スペースがあるのかも課題になる。約80世帯を受け入れる甲府市の自治研修センターの駐車場は7台分があるだけで、避難住民の車であふれることが予想される。羽田さんは「実際に避難先に行ってみると、避難生活が送れるのか疑問が残った。市や県は現地を見てしっかりとした計画をつくってほしい」とし、「机上」の計画で終わらないよう検証する必要性を指摘する。

異なる移動手順

 ハザードマップの重要性はここ数年、高まっている。15年の関東・東北豪雨で鬼怒川が氾濫した茨城県常総市や、昨年7月の西日本豪雨で大きな被害が出た岡山県倉敷市真備町地区もおおむね想定通りに浸水が起きた。一方で、西日本豪雨では避難につながらず、いかに住民に周知するかという課題も指摘された。

 藤井所長もこう力を込める。「住民全体に理解してもらうことが必要。周知がどういうやり方がいいかは委員会でも考えないといけない」。最新の知見を踏まえ、より詳細な内容にする一方で、住民に分かりやすく伝えるには、どうすればいいのか。模索が続く。


 【「守る命」富士山噴火に備える】
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