〈富士山と気象〉山頂にかかる雲(上)
周囲に何も遮るものがない富士山には、上空の風がまともに当たる。風は巨大な富士山の山体に遮られ、上昇気流となったり、左右に分かれたり、通過後に波打ったりと、さまざまな影響を受けて吹き抜けていく。乱された流れが富士山特有の雲を残していく。上空の風は、天気の変化をつげる先兵。富士山にかかる雲は、今後の天気を一足早く知らせてくれる。
雲ができる仕組みをおさらいすると、湿った空気が冷やされて水蒸気を含みきれなくなった時(飽和水蒸気量を超えた時)、余分な水分が水滴や氷となって空に浮かび雲となる。空気は周りから冷やされなくても、上昇すると周りの気圧の減少により膨張し、その際に内部の熱エネルギーを使うため、温度が下がる。つまり、雲は(1)水蒸気をたくさん含んだ湿った空気の流入(2)上昇してその空気が冷やされ、水蒸気が飽和状態を超える-の2点がそろうと発生する。
富士山の雲の多くは、低気圧が日本付近に近づいた時、水蒸気をたくさん含んだ湿った風が吹き込み、山の斜面にそってその風が上昇したり、山越えの際に波打ったりして発生する。湿った風が山にぶつかり強制的に上昇させられると、山頂付近を笠のようにおおう笠雲をつくる。風が山頂を越えた後に、風下側に波打つように上下流をくり返すと、上昇部分にいわゆる吊(つる)し雲が発生する。
富士山に現れる雲の代表的なものが、この笠雲と吊し雲で、現れる高さは8合目以上(3000メートル以上)がほとんど。両方がいっしょに現れることもある。
その時の富士山付近の気温や、風の湿りぐあい、風速などで笠雲や吊し雲もさまざまな形に変形する。山頂に旗がかかったような山旗雲や山の中腹に帯おびのようにのびる帯雲など別な形の雲も発生する。
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