〈富士山と気象〉雷の発生「予知」
午前6時の山頂と御前崎 気温差25度は“雷注意報”
「小細工を弄ろうしない大きな単純」
山の作家深田久弥(ふかだきゅうや・故人)さんは、登山家のバイブル的な本「日本百名山」の中で富士山をそう表現している。そして「もしこの山がなかったら、日本の歴史はもっと別な道を辿(たど)っていたかもしれない」と思いをめぐらせている。
「もしこの山がなかったら…」。山梨県にとっても、自然や歴史が大きく変わっていたに違いない。気象も同じ。高さ3776メートル。裾野を大きく広げる富士山は、太平洋からの温暖な風を遮り富士北麓特有の気候を作り出している。また、上空の気流を切り裂き、その名残を独特な形の雲にして天気の変化を告げる。山頂の冬は南極・昭和基地の冬よりも過酷。
梅雨入りとともに季節は盛夏への歩みも早める。梅雨も末期に近づくと本格化するのが雷。夏の強烈な日差しで地上が暖められると、上空の冷たい空気との間で大気が不安定になり積乱雲(=雷雲)が発達、「ピカッ、ゴロゴロ」と雷がとどろく。
この雷の発生の目安として、実は富士山頂の気温データが役立つ。過去のデータから、午前6時の富士山頂の気温と静岡県の御前崎の気温が25度以上あったら約90%の確率で雷が発生するという経験則がある。20度以上なら60-70%とも言われる。
両地点の標高による標準的な気温差は20度から24度。日差しの強まりと共に地上が暖まると、その差が広がり大気は不安定さを増す。午前6時の25度差は、すでに不安定の入り口にあるといえる。両地点のほぼリアルタイムの気温データは気象庁のホームページで確認できる。
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