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2021.5.08 所属カテゴリ: ふじさんクエスト / 自然 /

富士五湖のフジマリモ

 マリモはシオグサ科に属する淡水藻。単体は、細い繊維のような糸状体で、いくつもの分枝を持つ。湧き水などに揺られて絡まり合うことで、球状の集合体を形成する。湖水に差し込む光を取り込み、光合成をして成長する。北海道・阿寒湖のマリモは有名。ビロード状に大きくなり、直径30センチの超大型も見つかっている。山梨県の富士五湖に生息するフジマリモはほとんどが数センチ程度。国内では北海道をはじめ、山梨、青森、滋賀、富山の湖沼で生息が確認されている。

 1956年4月18日、山梨県山中湖村・山中小学校の杉浦忠睦校長が、同校児童が理科の研究時間中に訪れた、富士五湖のひとつ山中湖で採集した直径2センチ前後のアメ玉大の藻類がマリモであることを確認。同年5月2日、東大理学部の植物学本田正次教授によってマリモ族の一種であると確認された。さらに同年9月6日、長崎大学水産学部教授岡田喜一理学博士が山中湖畔を訪れ現地調査を行い、調査の結果、北海道阿寒湖のマリモの変種とし「Aegagropila Sauteri(Nees)Kutzing var.yamanakaensis Okada」と命名、和名を「フジマリモ」として発表した。フジマリモは湖の中央から東方の北岸に近い水深3-5メートルの所に産し、中心にれきをもち、わき水により回転して丸くなる。

 マリモは従来、日本で北海道、千島、樺太、外国でイギリス、オランダ、スウェーデンなどの北半球北部の高緯度、寒冷地帯に産するものとされ、低緯度の山中湖での分布は興味深い。1958年6月19日には県指定天然記念物となった。その後、1979年1月には河口湖で、さらに1993年5月には西湖でもフジマリモの分布が確認され、同年11月29日に三湖のフジマリモを「フジマリモ及び生息地」として改めて県の天然記念物に指定された。

 2002年7月に西湖で行われた調査では、大規模なフジマリモの群落を再確認した。フジマリモは湖底のわき水の周辺の水深約10メートル前後に群生、直径約10センチの個体も見つかった。調査では湖底に水温計も設置した。

 また、山梨大教育人間科学部の芹沢如比古准教授(水圏植物学)の研究グループが、2012年6月に精進湖の湖底で直径2~3センチ程度の球状の緑色の藻を、さらに2013年11月には本栖湖西岸の水深17~22メートルで岩石にマット状に付着する糸状の藻をそれぞれ発見。顕微鏡でいずれもマリモ類に特徴的な「不定根」を藻の枝先に確認し、フジマリモと特定。これにより富士五湖すべてでフジマリモの生息が確認されたことになる。

 一方で、最初に生息が確認された山中湖では、1990~2000年代にフジマリモを発見したとの報告があるものの、国や県が許可した本格調査では、県と村教委が1984年10月に実施した調査によって、湖北東部の「ママの森」沖で、球状やマット状のフジマリモの生息が確認されたのを最後に、生息実態がはっきりせず、2005年9月に富士北麓生態系調査会が行った調査では生息が確認されなかった。生活雑排水で湖の水質が悪化した影響などが考えられる。

 その後、山中湖のフジマリモ絶滅の危機を知った東京都の会社員の男性が、「研究に役立ててもらおう」と、50年以上前に山中湖で採取し自宅で育てていたフジマリモの一部を2011年、国立科学博物館植物研究部(茨城県)に寄贈した。当時小学生だった男性は、遊びに訪れた山中湖で湖畔に打ち上げられたフジマリモを見つけ、自宅に持ち帰った。初めはフジマリモとは知らず、「庭先の水槽に入れ、雨水で育ててきた」という。同研究部は、採取当時の状況や、DNAがほかの湖のマリモと異なることから山中湖のマリモと確認。それを知った山中湖村が一部を譲り受けられないか打診し、2012年4月、同研究部から村へ贈られ、半世紀ぶりに “里帰り”した。村は譲り受けたフジマリモを、湖水と地下水、水道水の3種類の水で育てている。生育状況は同研究部に報告し、フジマリモに適した生育環境や、現在の山中湖で繁殖できるかなどを調べる。湖水でも生息できることが確認されれば、繁殖したフジマリモを湖に戻すことも計画している。

 2014年2月、山中湖フジマリモ生息調査検討委員会(国立科学博物館と山中湖村教育委員会の共同調査チーム)が山中湖で生息調査を行い、潜水調査の結果、「ママの森」の北岸で、球状になりかけているマリモの群落を確認。見つかったマリモは波の動きによって、5~10年程度後に完全な球状になる可能性を示唆。一方、この調査に先立って2013年12月に行われた予備調査では、岩に付着したマリモが発見されていて、DNA鑑定の結果、阿寒湖のマリモと同種のマリモと判明。里帰りしたマリモとはDNA型が異なることから、山中湖には2種類のマリモが生息していたとの見解を示す。

 2021年3月、同委員会が2019年9月と2020年3月に再度実施した生息調査の結果を報告。前回調査でフジマリモが多く見つかった岩場には今回、別種類の藻が増殖。見つかったフジマリモの個体数は目測で前回調査の半分以下になっていて、丸くなりつつあるフジマリモは見つからなかったという。調査を担当した専門家は原因として、山中湖の水温に着目。平均水温が過去40年で約2度上昇していたほか、近年の夏はフジマリモの生育環境には適さないという25度以上の水温が続いていたことが判明。地球温暖化による水温の上昇がマリモの生育環境を悪化させている可能性が高いとして、「水温が高くなると、他の藻類が増えてフジマリモが競争に負けてしまう。この状況が続けば絶滅も考えられる」と警鐘を鳴らしている。同委員会は今回の調査結果を冊子「山中湖のまりも」にまとめ、同村教育委員会などで配布している。

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