植物の富士登山(植生遷移、垂直分布)

植物の富士登山(植生遷移、垂直分布)
 海(太平洋)から近いと同時に美しい円すい形をを描く独立峰の富士山は、植物の垂直分布を見るのに最も適した山といえる。旧登山道や南北の自動車道を登っていくと、標高が高くなり生存するための環境が厳しくなるにつれて、姿を変えていく植物の姿をうかがい知ることができる。上空から見ると植物の分布は山頂を中心にしたドーナツ状に見えるはずだ。

 さらに、比較的若い火山である富士山では植物の遷移をリアルタイムで観察することができる。火山灰と溶岩で覆われた火山高原にはまず草が入り込んで群落を形成し、次第に環境が整えられるにつれて低木、さらに高木が侵入して森林へと生長していく。草が厳しい環境の中で生育している標高3000メートル以上でも、草本植物群が種類を変えながらも遷移を続けていて、山頂に向かってはい上がろうとしている。

 山梨県営富士山有料道路(富士スバルライン)は、標高に応じて変化していく森林の様相を沿道から手軽に見ることができる。有料道路を入るとまず天然アカマツ林があり、それを抜けると採草地、雑木など人間の手が入った高原地帯になる。この辺りが低山帯。さらに登るとウラジロモミやカラマツの人工林が続く山地帯となる。山地帯はブナ帯とも呼ばれ、南麓ではここにブナの木が見られるが、北麓にはない。2合目にはシラカバが生え、そこから先はコメツガ、さらに4合目付近はシラビソの林へ。この辺りから亜高山帯になり針葉樹が生い茂る。

 亜高山帯が終わる5合目付近からは高山帯に入る。そこではそれまで見えた高い木々の姿はなくなり、ミヤマハンノキ、背の低いカラマツなどの灌木やオンタデ、メイゲツソウなどの草が生える。その境界がいわゆる森林限界で、そこから上では森林という形態をとることができないという限界線である。富士山に雪が降ったとき、標高2500メートル以上は真っ白に雪化粧するが、その下は積雪以上樹木が生い茂っていて遠くから雪を見ることができない。その雪の線がまさに森林限界を現している。

 遷移が若い様相を示している富士山では極相林に至るまでの光景も随所で見ることができる。富士山有料道路沿いのアカマツや大沢駐車場付近のカラマツ、2合目付近のシラカバなどの陽樹はいずれ陰樹に変わっていくことが予想される。また3、4合目のコメツガ、シラビソなどの陰樹の下にはその子孫が広がっていて、その種が代々続いていくことがうかがえる。

 一方、富士山有料道路沿いのアカマツの下にその幼木を見ることはできない。そうなるとアカマツはその代で終わってしまう。5合目付近のダケカンバ林にはシラビソが混ざってきていて、ダケカンバという陽樹からシラビソという陰樹へと移り変わっていく様子が分かる。

 静岡県側の宝永火口付近では植物が火山荒地に根付こうとしている姿が見られる。1707年の宝永の噴火により富士山東斜面は広範囲にわたって火山灰、火山礫に覆われ、森林限界も大きく引き下げられた。

 植物が完全になくなった裸地にはまずオンタデ、メイゲツソウなどが群落をつくる。何十年という間にわずかながら枯れ草ができ、腐葉土が砂礫の中に生まれる。そこへカラマツ、ミヤマヤナギ、ミヤマハンノキなど栄養を多く必要とする木が侵入し、やがては森林を形成、オンタデなどは姿を消していく。東斜面ではこうして森林が山頂を目指してはい上がっているが、宝永火口付近では噴火後から現在に至るまで、メイゲツソウの群落に他種がようやく侵入してきた段階だ。

山梨日日新聞社 YBS山梨放送
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