世界遺産「富士山」へ プロジェクト始動
正念場迎えた富士山世界遺産登録
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自然美が信仰と文化形成の源
 富士山の世界文化遺産登録が正念場を迎えている。遺産登録を望む組織にとって、毎年7月が国に推薦書原案を提出する期限だからだ。同原案では富士山は国内のみならず世界にとっても保全し、残す価値を持つと説得するだけの「顕著な普遍的価値」を証明し、人類の財産の管理人としての心構えともいうべき「保存管理計画」を策定しなければならない。
世界遺産登録へのステップ
世界遺産暫定リストへの登録
(2007年1月)
世界遺産推薦書案の作成、国への提出
(今年7月予定)
国からユネスコに推薦書を提出
国際的な専門機関(イコモス)による現地調査
ユネスコ世界遺産委員会での審議
世界遺産登録決定
 昨年9月に山梨県で開かれた「富士山世界文化遺産国際フォーラム」で文化遺産の登録を審査する国際記念物遺跡会議(イコモス)の専門家の発言が波紋を呼んだ。「文化遺産」での登録準備が進められていた富士山に対して「たぐいまれなる自然美」という新たな価値証明をすべきだと提言したのだ。

 遺産登録にはユネスコが定めた10の評価基準をカテゴリー別に組み合わせる必要がある。富士山は文化的伝統を伝承する物証▽景観を代表する顕著な見本▽信仰や芸術などとの関連−という組み合わせで価値証明をまとめてきただけに新たな評価基準の適用は想定外だった。

 加えて自然遺産の適用基準である「自然美」は国際自然保護連合(IUCN)という全く別の機関が審査を行うため、新たな調整のためにどれだけの作業時間が必要かなどの課題が発生した。

 結局、今年3月16日に東京で開かれた静岡・山梨両県の学術委員会で非公式ながら、IUCNは「自然美」を文化遺産へ適用することに否定的な見解をもつことが報告され、ユネスコ世界遺産センターに最終判断を仰ぐことになった。

新たな判断示す可能性

 しかし、イコモスの提言は、人の手が加わっていない自然に対し精神性、文化性をを見出してきた日本文化の特性とも合致する。同委員会も推薦書原案に「富士山の自然の美しさが信仰や芸術文化の基盤になっている」という一文を盛り込んでいる。さらにユネスコがIUCNの判断に同調するとも限らず「新しい世界遺産の形」の先例として、これまでにない判断を示す可能性もあることから、ユネスコの判断いかんでは原案提出期限に大きな影響を与えることになる。

人類の財産を保存・管理

 以前、複合遺産登録を目指し運動を展開した際にはゴミ・し尿処理対策の遅れが国際的に指摘された。この経験は静岡・山梨両県民に富士山を見つめなおす機会を与え、その後のクリーンキャンペーンやバイオトイレ、登山道の整備をはじめ、歴史・文化の再発見のきっかけを作った。富士山の価値を高め、後世に伝えるために力を合わせようという両県民の意識改革はその後の文化遺産登録運動につながっている。

 遺産登録されることは、一流景勝地という肩書きを得ることではなく、人類を代表して遺産の保存・管理に携わることだ。最適な方法での遺産登録のために、幅広く、根気強い取り組みが求められている。

2010年5月18日付 山梨日日新聞掲載


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