世界遺産「富士山」へ プロジェクト始動
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アジア的アプローチによる文化的景観の管理 ナンシー・ポロックさん
 文化的景観とは、いろいろな文化を代表するもので、人間と自然との相互作用が見て取れるものを意味する。富士山の場合、伝説、信仰、民俗が関連した文化的景観といえる。そしてこれらの保護にはコミュニティーの存在が大きくかかわってくる。

 コミュニティーが景観を保護した例として、滋賀県の近江八幡がある。中心地の運河に駐車場を設置する計画が浮上した際、運河が通商を担ってきた伝統を守ろうと、地元の有志が立ち上がった。今では土地利用や開発に関する規制やガイドラインを設けている。

 景観を守るためにはいくつかの行政が関与してくる。いろんな考え方を省庁、県などのレベルで話し合って妥協する心を持つことも重要。
Nancy Pollock−Ellwand(ナンシー・ポロック)さん オーストラリア・アデレード大教授で、専門は景観設計、都市計画。2006年には東京大客員研究員を務め、東京・谷中の街並み保存に携わったほか、同大の横張真教授らと滋賀県近江八幡の研究を行った。2000〜08年までイコモス文化的景観国際委員会のカナダ代表。

受け継がれる文化的景観の精神性と審美性 ジュリエット・ラムゼーさん
 世界遺産の価値証明を行う評価基準の中では、価値の範囲を示すインジケーター(指標)が大切になってくる。しかし指標の適用方法は時代によって変化してきている。

 評価基準6は伝統や芸術など無形の価値を示しているが、2008年に国際記念物遺跡会議(イコモス)がまとめた論文では、顕著で普遍的な芸術価値には触れていない。芸術の価値の解釈は難しいということだ。

 一方、評価基準7は最上級の自然現象とたぐいまれな自然美を持つ地域の概念を定めている。国際自然保護連合(IUCN)はこれらは主観的な価値だと言っている。美的な資質とは自然の崇高な力であり、富士山を考えるときにも適用できるかもしれない。
Juliet Ramsay(ジュリエット・ラムゼー)さん 景観プランナー。長年オーストラリア政府の環境、水遺産、芸術省遺産局に在籍。イコモス文化的景観国際委員会オーストラリア代表を務め、国際会議やシンポジウムで景観の美的価値、歴史的庭園の類型学、地域の文化遺産評価の方法論などに関する多くの論文を発表している。

中国の信仰の山について ル・ズーさん
 中国における文化的景観が生まれた背景には、水利計画の一部から成り立ったものと、その場所自体に文化的意義を持つものの二つに大別される。

 中国・五台山は文化的意義を持つもので「聖なる山」という概念で初めて世界遺産登録された。2007年に文化的価値と自然的価値を組み合わせた推薦文書を世界遺産センターに提出したが、センターは文化的価値の重要性を指摘し、再度文書を作り直した経緯がある。構成資産も40から10に絞り込んだ。

 自然と文化の両方が互いに影響を与えることで新たな文化的景観も生まれる。その例として富士山があると思う。自然が影響を与えるからこそ信仰につながり、五台山の場合は仏教のよりどころとなった。
Lu Zhou(ル・ズーさん)さん 中国・清華大教授、中国イコモス国内委員会副委員長。中国国内の天国寺、佛光寺、チンギス・ハン廟、旧江南造船所の保護に関する総合基本計画策定など、文化遺産保全プロジェクトを数多く手がける。現在では四川大地震後の遺産保護活動にも尽力している。

2009年9月25日付 山梨日日新聞掲載


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