世界遺産「富士山」へ プロジェクト始動
パネルディスカッション
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 パネリスト
田中 利典さん  金峯山修験本宗宗務総長
大国 晴雄さん  島根県大田市教委教育部長
清水 国明さん  NPO法人河口湖自然楽校長
堀内  茂さん  富士吉田市長
 コーディネーター
西村 幸夫さん  東京大先端科学技術研究センター教授
富士山の世界文化遺産登録活動が本格化する中、「世界遺産登録とまちづくり」を基調テーマに活発に意見を交わすパネリスト=富士吉田・ハイランドリゾートホテル&スパ

 −世界遺産登録に向けては、さまざまなハードルがある。まず石見銀山遺跡の登録にかかわった大国さんに地元調整や登録の進め方を聞きたい。

  大国晴雄 核心地域となる大森町の住民が以前から文化財の愛護活動を続けていたので、地元調整はうまくいった。市民200人とワークショップを開いて、登録後のあり方などを検討、大森町だけで支えきれない部分を補うための行動計画も作った。行政は市民との「協働」を念頭に置いた。

 −石見銀山遺跡では登録前年に年間43万人だった観光客が、登録後は95万人に増えたそうだが、地元は歓迎だったのか。

 大国 基本的に良かったが、大森町の住民にはやはり負担になった。そのため、パークアンドライドの駐車場を400台分に限定、「瞬間最大」で2000人しか町に入れないようにした。行政と住民、観光業者らで見いだした合意点だ。

 −清水さんは基調講演を聴いてどう考えたか。

  清水国明 富士登山ガイドの認定をもらって毎年、何組かを頂上に案内する。多くの人に富士山に登ってもらいたいというのが私の考え。世界遺産登録がそれを進めてくれると考えていたが(基調講演が)「観光目的ではいけない」という話だったので少し恥ずかしい。私は富士山のふもとに森を借り、子供たちが自然と触れ合う場を作った。世界遺産になることで自由に活動できなくなるのは嫌だなと思っている。

 活動を通し住民と連携 堀内さん

 −地元市長としてはどうか。

  堀内茂 富士山の近くに住んでいると感激を忘れがちだが、登録活動を通じて富士山の価値を見直すようになった。1つの目標に向かうことで地域住民や近隣市町村のつながりが強まり、静岡県との連携も生まれた。その副産物が自動車の「富士山ナンバー」導入だった。世界遺産登録は1つのスタート地点に立つことだと思っている。これから登山客の規制や、環境保全協力金の導入も必要になるかもしれない。日本の宝をいかに守っていくか。考えていかなければならない。

 「聖地性」見つめ直す時 田中さん

 −では田中さんに聞きたい。基調講演で指摘した富士山の聖地性。これを取り戻すことと、観光地であることは均衡を保てるのか。

  田中利典 富士山を観光開発することを軽々に責められないが、「もういいだろう」というところに来ているのではないか。経済中心では人は幸せになれない。「本来、人も自然の一部である」と気付くことができるような観光ならいいが、登山鉄道のようなものはいらないだろう。世界遺産を目指すのであれば、「富士山の聖地性」をあらためて見つめ直してもらいたい。

  清水 極論だが、富士山の自然は放っておいてもそれほど壊れないのではないか。ごみ問題が過去に指摘されてきたけれど、ここ4、5年で富士山はとてもきれいになっている。人間をもっと信頼すれば、共存していけるかもしれない。

  田中 日本人が自然を大切にしてきたのは、山や森に神仏がいると感じたからだ。神仏がいるところにごみは捨てない。その価値観を取り戻すことが大事、ということだ。

 −石見銀山遺跡では路線バスが廃止されたというが。

 大国 最初はマイカーも入れたが、どんどん増えるのでマイカーをやめるために路線バスを導入した。だが観光面の配慮ばかりでは地元がもたないので、路線バスもなくした。今はみんな歩いている。地元で話し合いを続けながら、折り合いを付けていくしかない。

 独自の手法作り上げて 大国さん

 −地元住民や行政との間で、信頼関係ができているということか。

 大国 時間はかかる。大田市役所には約400人の職員がいるが、石見銀山課に12人ほどを配置して住民と信頼関係を築くための総合窓口とした。世界遺産の場合は、先進地の例を当てはめようとしても駄目だ。自分たちでモデルをつくり上げなければならない。

 恩恵に対し「お返し」を 清水さん

 −最後にひと言ずつ。

 田中 私は吉野の世界遺産登録を通じて、日本や世界を変えたいという思いがあった。世界遺産の理論は優れていて遺産を通じ平和を考えよう、というレベルまできている。地元住民が地域に帰属し、世界を救うようなもの(世界遺産)を自分たちの手にできればいいと思う。

 大国 欧米のスタンダードではなかった遺産が力を持ち始めている。アジア、アフリカ、ラテンアメリカ諸国では無形のものも含めて遺産にしようという流れがある。富士山の世界遺産登録は、そうした流れをさらに進める旗振り役になる、と期待されているのではないか。

 清水 富士山から水や自然、さらに「文化」もいただいている。もらうばかりでなく、植樹を進めるなど、お返しをしていかなければいけないと思っている。

 堀内 自然との共生は難しいが、どこかで誰かが線を引かなければならない。行政の果たす役割は大きいと感じている。
田中 利典(たなか・りてん)さん 2001年から金峯山修験本宗宗務総長、金峯山寺執行長。全日本仏教会や日本山岳修験学会の評議員、吉野ユネスコ協会副会長なども務める。
大国 晴雄さん(おおぐに・はるお)さん 2001年に設置された石見銀山課の初代課長を務めた。遺産登録の前提となる史跡の追加指定や地元調整を指揮。推薦書作成も担当した。
清水 国明(しみず・くにあき)さん テレビ、ラジオの司会やコメンテーターとして活躍。NPO法人河口湖自然楽校長。全国各地で環境講演なども行う。富士河口湖町名誉町民。
堀内 茂(ほりうち・しげる)さん 1987年から山梨県議を1期務めた。97年から2005年にかけ県人事委員会委員。07年4月に富士吉田市長に就任した。

2009年2月24日付 山梨日日新聞掲載


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