世界遺産「富士山」へ プロジェクト始動
第31回世界遺産委員会報告(ニュージーランド)
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日本の象徴「富士山」 世界に名乗り
 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第31回世界遺産委員会が6月23日から7月2日まで、ニュージーランドのクライストチャーチで開かれた。山梨、静岡両県が登録を目指す「富士山」が、暫定リスト登載物件として初めて報告され、日本の象徴は世界遺産候補として新たなステージに立った。委員会は新規登録物件のほか、危機にひんしている遺産の取り扱いなどを審議。その過程で遺産には、世界に通用する「顕著で普遍的な価値」の維持、証明が不可欠であることがあらためて浮き彫りになった。富士山の本登録に向けた推薦書づくりの鍵にもなる。委員会にオブザーバー参加した両県関係者らに同行取材した。

850超す登録、審査厳格化 「普遍的価値」証明が鍵

毎年1度開かれるユネスコ世界遺産委員会。各国政府代表者をはじめ、オブザーバーとして自治体やNGO関係者ら計約700人が集まった
 今回の委員会では、日本が推薦した「石見銀山遺跡とその文化的景観」(島根県大田市)を含む22件の新規登録を決議する一方、オマーンの「アラビアオリックスの保護区」の登録を抹消。世界遺産はこれで、計851件になった。

 また、本登録への第1ステップとなる、各国の暫定リスト登載物件(計153件)が報告された。日本からは「富士山」をはじめ「富岡製糸場と絹産業遺産群」(群馬)「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」(奈良)など計5件が追加された。

 暫定リストに関する審議では、暫定物件が年々増え続けていることから、「(暫定リストにも)一定の基準を設けるべきだ」「暫定段階から政府レベルの積極的な介入が必要」など、同リストのあり方をめぐり活発な意見が交わされた。

 850を超える世界遺産。地域や種類の偏りの是正が課題になっているほか、昨年の委員会では審議対象物件の上限を45にするなど、近年は「登録抑制」傾向にある。今回の審議内容からも、遺産の保存・管理が難しくなっている現状とともに、審査が一層厳格になっていることをうかがわせた。

■巻き返し策展開
 新規登録された日本の「石見銀山」については委員会審議前、調査・諮問機関の国際記念物遺跡会議(ICOMOS)が「顕著な普遍的価値の証明、考古学的調査が不十分」などとして登録延期をユネスコに勧告。当初、勧告を覆すことは厳しいとみられたものの、日本は反論となる「補足情報」を委員国に提示するなどの巻き返し策を展開し“逆転登録”にこぎつけた。

 委員会開幕以降も、現地で積極的なアピール活動を続けていた近藤誠一ユネスコ政府代表部大使は、登録決定後の記者会見で「16世紀から自然と共生、環境に配慮しながら採掘を続けてきた銀山の歴史を、繰り返し説明したことが登録につながった」とし、日本で11件目の世界文化遺産となった石見銀山の独自の価値を強調した。

 「富士山」も石見と同じ文化遺産登録を目指す。こうした経緯に現地入りしていた関係者からは「文化遺産としての価値証明、富士山が持つ文化、オリジナリティーをどう示し、いかに世界に認めてもらうかがポイントになる」との言葉も漏れた。

■個別アプローチ
関係者に富士山に関する資料を手渡し、アピールする県企画部の有泉晴広理事=ニュージーランド・クライストチャーチ
 暫定リスト報告の形で、委員会で初めて「富士山」が議題に上るため、山梨、静岡両県担当者のほか、全国レベルで登録活動を進めているNPO法人「富士山を世界遺産にする国民会議」のメンバーら10数人がニュージーランドに渡った。

 本登録への推薦書素案の作成の参考にしようと、委員会審議に注意深く耳を傾けるとともに、各国関係者に個別にアプローチし、遺産登録や遺産の管理保全に関する情報を集めた。

 また富士山を映したDVD、富士山信仰や芸術作品に与えた影響を日本語と英語で解説したパンフレット、ポストカードなどを関係者に直接手渡し、富士山の知名度アップに努めた。

 両県関係者らと情報交換したニュージーランド環境保全省トンガリロ・タウポ保護地区管理委員ポール・グリーンさん(62)は、今年5月に来日し、富士山を訪れたことを話しながら「(富士山には)“神聖なる山”という印象を持った。もちろん保全に向けた課題も目に付いた。ごみやし尿処理などの環境問題、景観維持、また観光客のマネジメントなどもきちんと考えていく必要がある」とアドバイスした。

■素案作り本格化
 富士山について文化庁は(1)日本を代表、象徴する山として親しまれてきた(2)富士講などの信仰に基づく登山様式が現在も残る(3)多くの絵画作品や和歌の題材とされた−ことを挙げ、「名山」として著名であり、信仰と芸術・文化活動に関連する文化的景観として価値がある、と暫定リスト入りを決めた。

 一方で本登録への課題として、富士山の価値を裏付ける資産(富士五湖など)を幅広く構成要素に盛り込むことや、地域開発と資産保護のバランスを取るため地元関係者らとの合意形成を図ることなどを指摘している。富士五湖をめぐっては、先月までに地元市町村が提出した富士山の文化的価値を証明する材料となるリストに掲載されていず、今後、調整が残されている。

 富士山の“価値証明”の基礎となる推薦書の素案づくり作業は今月から本格化。委員会審議を見守った「富士山」の地元関係者らは、本登録審議の舞台に上がるための準備に一層力を注ぐ、と口をそろえた。
世界遺産委員会 世界遺産条約締約国(183カ国)から選ばれた21カ国で構成され、年に1度、世界各国を会場に開かれる。(1)世界遺産登録の可否決定(2)登録遺産や危機遺産の保全状況審査(3)遺産保護のための国際的援助要請の審査(4)世界遺産基金の運用−などが主要議題となる。

2007年7月13日付 山梨日日新聞掲載


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